2021年度の介護報酬改定によって新たにLIFE関連加算がつくられ、1年が経過しました。わたしの働くデイサービスでは、2021年4月より「科学的介護推進体制加算」を算定し始めました。この科学的介護推進体制加算を算定するようになり、わたしのデイサービスではいくつかの変化がありました。
ここではその状況をシェアし、算定前後で変わったことをピックアップしてお伝えしたいと思います。「わたしのデイサービスでもこれから科学的介護推進体制加算の算定を考えている」という方は、ぜひご覧ください。
(参考:【介護保険】「LIFE(ライフ)とは?」これだけ知っておけば大丈夫)
- ケア内容に変化はなかった
- 業務量が増大した
- 利用者の負担が増えた
科学体介護推進体制加算とは?
まず、科学的介護推進体制加算の概要について触れておきたいと思います。科学的介護推進体制加算は、科学的に根拠が裏付けられた介護サービスの提供を目的とし、PDCAサイクルを構築するためにLIFEへ情報を提供することによって算定できる加算です。
要は、国が各事業所から利用者に関するデータを集めてビッグデータを作り、そこから各事業所へフィードバックを行います。事業者はそのフィードバックを受け、利用者のケアへ反映させます。そしてそのデータをまた国へ送る。このサイクルを繰り返していくことにより、ケアの質を向上していきましょうね、という取り組みです。で、この取り組みに参加する事業者には国が加算をあげますよ、という仕組みですね。
ケア内容に変化はなし
データのフィードバックが開始に
LIFEが開始となった当初は事業者へのフィードバックが行われず、いつフィードバックが来るのかと思っていました。ようやく2021年8月に、LIFEに集められたデータのフィードバックが開始となりました。その後も時期は不定期であるものの、毎月のデータがフィードバックされています。
ではフィードバックの内容はどうなっているでしょう?LIFEからは、要介護度やADL、認知症の診断などといったLIFEに入力したデータの全国集計値となってフィードバックされています。
フィードバックの効果は?
「このフィードバック意味なくない?」
というのが、わたしの率直な感想です。要介護度やADLなどの全国集計値がわかったところで、それをどうケアに落とし込んだらよいのでしょう。知恵を絞ってみましたが、このフィードバックを活用するための具体的なアクションは思いつきません。結果として、科学的介護推進体制加算を算定する前と後でケア内容に変化はありませんでした。
業務量の増大
LIFEへのデータ入力が負担
科学的介護推進体制加算を算定するためには、少なくとも半年に1回、利用者ごとにLIFEへデータ入力をする必要があります。うちのデイサービスの場合は半年に1回、4月と10月にLIFEへデータ入力を行っています。これにかかるアセスメントと入力の作業が、とっても負担です。そもそも今まで行っていなかった業務が追加になったわけですから…単純に業務量増です。さらに、毎月の新規利用者や利用停止となった利用者は、その都度アセスメントをして入力をする必要があります。ですからLIFEへの入力は、実質的に毎月しなければなりません。
厚労省の調査によると、LIFEにかかる月間所要時間のうち、アセスメントが14.6時間、データ入力が12.5時間、合計すると27.1時間となっています。1か月に約30時間もの業務時間が増えたわけですね。この数字を見るだけでも、どれだけ負担が増えたかがわかります。
(参考:LIFEを活用した取組状況の把握及び訪問系サービス・居宅介護支援事業所におけるLIFEの活用可能性の検証に関する調査研究事業(結果概要)(案))
割に合わない単位数
毎月こんなに手間をかけてデータを入力して、いったい事業者にはいくら入ると思いますか?科学的介護推進体制加算の額は、利用者ひとりにつき月40単位(約400円)です。1日ではなく、1か月で40単位です。これは正直言って割に合いません。仮に利用者が100人いたとしたら、月4万円の収入です。この4万円のために毎月必死に入力しているかと思うと、さすがに泣けてきます。
さらに前述した通り、利用者のケアに役立たないものであればなおさらです。LIFEの活用を国が推進しているからという理由でうちのデイサービスでは渋々取り組んでいますが、そうじゃなければこんなコスパの悪い加算は算定しないでしょう。
利用者の負担増
毎月40単位の負担増
一方で、月に40単位とはいえ利用者の自己負担は増えました。40単位という額が少ないと思うのは、事業者目線での話です。利用者にとってみれば、月40単位でも立派な負担増です。
科学的介護推進体制加算を算定したことによって何か利用者にメリットがあれば、加算されても文句はないでしょう。しかし、繰り返しになりますが、この科学的介護推進体制加算は、利用者にとって無意味なのです。何のメリットもありません。そんなもののために毎月の負担が増えるのは、納得がいかないでしょう。
本当に利用者に望まれているのか?
そもそもデイサービスに科学的介護が必要でしょうか?デイサービスの利用者は、科学的に介護されることを望んでいるのでしょうか?わたしはそうは思いません。科学的介護なんかよりも、人と人との関わりの中で生まれる非科学的な関わりのほうが、デイサービスの利用者に求められているのでは?と思います。もしこの科学的介護推進体制加算が、利用者に望まれてない加算だとしたら…いったい誰得の加算なのでしょう。
おわりに
科学的介護推進体制加算の算定が開始になってから1年が経ち、わたしの働くデイサービスを含め多くの事業所に変化が起きました。しかしそれは決してよい変化とはいえないものです。負担だけが多くて誰のためにもならないものを続けていくほど、この仕事はヒマではありません。ひとりの介護従事者として、わたしはLIFEがこのまま続いていくことに危機感を覚えます。
このままLIFEを続けていっても、職員が疲弊するだけです。LIFEによって介護現場は負担を強いられているという事実を、多くの人に知っていただきたいと思います。また、これから科学的介護推進体制加算を算定しようと考えている方は、どうか覚悟をもって取り組んでください。けっこう大変ですよ、ホントに…。
takuma(@takuma3104 )
生活相談員(社会福祉士・介護支援専門員)。
デイサービスとショートステイの「生活相談員」という仕事を10年以上続けています。
このサイト「生活相談員ラボ」では、「現役の強みを生かした、現場感覚のある情報発信」をコンセプトに、生活相談員をはじめたばかりの人やこれから生活相談員になる人の役に立つ記事を書いています。
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