シリーズでお送りし(たいと思っ)ております、このブログ「生活相談員ラボ」の福祉教養コーナー。今回のテーマは「福祉国家」です。
「福祉国家ってなに?」「日本って福祉国家なの?」といった疑問を解決していきたいと思います。
takuma(@takuma3104 )
生活相談員(社会福祉士・介護支援専門員)。
デイサービスとショートステイの「生活相談員」という仕事を10年以上続けています。
このサイト「生活相談員ラボ」では、「現役の強みを生かした、現場感覚のある情報発信」をコンセプトに、生活相談員をはじめたばかりの人やこれから生活相談員になる人の役に立つ記事を書いています。
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福祉国家とは?
夜警国家から福祉国家へ
夜警国家とは、政府が国防や国内の治安維持といった最小限の役割しか担わない、自由放任の国家のことです。「小さな政府」とも呼ばれます。ドイツの社会主義者ラッサールさんという人が、1862年に生み出した言葉です。
夜警国家のメリットとしては、税金が安く経済活動が活発になります。しかし、国内に格差が生まれ治安が悪化するというデメリットもあります。
この夜警国家と対比されるのが福祉国家です。
福祉国家とは?
福祉国家は夜警国家と異なり、政府の役割が強くなります。国防や国内の治安維持だけではなく、社会保障制度を充実させ国民の暮らしを安定させるのが福祉国家です。
もっと簡単にいうと、福祉国家とは「福祉にお金をかけている国家」のことです。
福祉が充実するため貧富の差が生じにくいですが、そのぶん国家が個人に介入することが多くなり、税金等による国民の負担は大きくなります。
日本は福祉国家といえるのか?
日本の社会保障費はどれくらい?
「福祉にお金をかけている国家」が福祉国家であるということがわかりました。ではここからが本題です。はたして、日本は福祉国家といえるのでしょうか?
まずは、「日本が福祉にどれだけお金をかけているのか?」を確認していきましょう。
以下の資料は、日本における社会保障給付費の推移です。(厚生労働省 社会保障給付費の推移)
このデータをみる限り、日本の社会保障費は右肩上がりに増え続けています。2021年の時点でおよそ130兆円が社会保障、つまり福祉へのお金として使われているわけです。日本のGDP(国内総生産)がおよそ560兆円ですから、日本全体のお金の約1/4の額です。
各国との比較
つぎに、「ほかの国と比べて日本はどれくらい福祉にお金をかけているか?」を確認してみましょう。
以下の資料は、社会保障費の諸外国との比較です。(厚生労働省 OECD諸国における社会保障支出と国民負担率の関係)
これを見る限り、日本の社会保障費は高すぎず低すぎず、中間層に位置していることがわかります。諸外国と比較しても、日本はそれなりに福祉にお金をかけているわけです。
以上のことから、日本は福祉にお金をかけている国だということがわかりました。つまり、日本は福祉国家であるといえるでしょう。
これからも日本は福祉国家でいられるのか?
日本が福祉国家を維持できない理由
ここまでで、日本は福祉国家であるということがわかりました。それでは最後に、「これからも日本は福祉国家でいられるのか?」ということについて考えていきたいと思います。
前述の資料『日本における社会保障給付費の推移』からもみてとれるように、日本の社会保障費は右肩上がりで増え続け、日本は福祉国家としての道を歩んできました。しかし、これからはどうでしょう?わたしは以下の2点において、日本がこれからも今までと同水準の福祉国家を維持していくのは困難であると考えます。
ひとつは福祉にかける財源が日本に不足している点、そしてもうひとつは福祉の担い手が不足している点です。
福祉にかける財源の不足
日本がこれからも福祉国家を維持していくためには、財源としてより多くの税金が必要になります。そしてその税金を得るには、経済が活性化しなければなりません。経済が活性化することで、そのぶん国に税金が入るわけですからね。
しかし、今の日本の経済は衰退の一途をたどっています。これでは福祉にお金をかけたくても、国に税金が入らないからかけられないということになります。国の税収が少なければ、年金や医療、介護保険といった福祉をこれからも維持することはできないでしょう。そしてそれは、年金受給額の低下や医療費、介護保険料の増額という形ですでにしわ寄せがきています。
つまり、財源の不足により日本は今まで築き上げた社会保障を維持するのが難しくなっているのです。ですから、日本が今の福祉国家を維持することはできないというわけです。
福祉の担い手の不足
わたしは介護施設で働いているので、介護業界を例に挙げたいと思います。介護業界は人材が不足しています。人材不足のいちばんの要因は、給与が安いことです。
介護従事者の給与は、おもに介護報酬によって賄われています。この介護報酬は公定価格となっていますので、国によってその金額がコントロールされています。そして、この公定価格ですが、国はとても安く設定しているのです。その理由は、前述したように国の財源が不足しているからですね。そういったわけで、わたしたち介護従事者は低収入で働くことを余儀なくされているのです。
当然ですが、そのような業界に今後人材が集まるとは到底思えません。事実、「2025年問題」といって、団塊の世代が後期高齢者の年齢に達する2025年には、およそ30万人の介護職員が不足するといわれています。わたしの働く地域でも、人が集まらずに閉鎖する施設もちらほら出始めてしまいました。
今後も福祉の担い手不足は続き、福祉サービスのニーズはあってもそれを満たすことができなくなっていくでしょう。
方向性の転換を迫られる
1973年に田中角栄さんが福祉元年を宣言して以来、日本は福祉国家として社会保障の拡大の一途を続けていました。(参考:なぜ1973年を「福祉元年」と言うのか?)
拡大し続けてきたことにより、今や制度を維持することができなくなってきた社会保障。しかし、現在のところ何も対策は見出されていません。今までと同じように、増える社会保障費に歯止めはかからず、国の借金は増え続けています。このやり方で福祉国家を維持していけば、いつか立ち行かなくなるはずです。よって、日本がこれからも福祉国家としてあり続けるためには、今までの仕組みから別の仕組みへと方向転換する必要があると言えるでしょう。
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