岸田政権による政策のひとつとして、「介護職員の9000円賃上げ」が打ち出されました。この9000円賃上げ政策の具体策として、介護職員処遇改善支援補助金(以下、補助金)というものが2022年2月より実施されています。(参考:介護職員処遇改善支援補助金の概要をわかりやすく解説)国がこの補助金を出すことにより、介護職員へ月9000円の賃上げを可能にしようというものです。
では、実際に介護の現場で9000円の賃上げは実施されたのでしょうか?介護施設で働くわたしの実体験をもとにしつつ、この補助金によって介護職員の給料は9000円増えたのか?という疑問にお答えしたいと思います。
takuma(@takuma3104 )
生活相談員(社会福祉士・介護支援専門員)。
デイサービスとショートステイの「生活相談員」という仕事を10年以上続けています。
このサイト「生活相談員ラボ」では、「現役の強みを生かした、現場感覚のある情報発信」をコンセプトに、生活相談員をはじめたばかりの人やこれから生活相談員になる人の役に立つ記事を書いています。
詳しい自己紹介はこちら。
月9000円は増えない
結論としては、わたしの働く介護施設を含む多くの事業所で介護職員の給料は月9000円も増えていません。よくて「月数千円の賃上げ」といったところではないでしょうか。ちなみにわたしの働くデイサービスでは、介護職員ひとりあたり月6000円ほどの賃上げにとどまっています。
もちろん、月9000円の賃上げをした事業所がゼロというわけではありません。なかには月9000円以上の賃上げを実施した事業所もあるでしょう。しかし、9000円以上の賃上げを実施できた事業所は、少数派であるという認識でよいと思います。
次からは、なぜ介護職員の給料が月9000円も増えないのか、その理由についてご説明していきます。
なぜ月9000円増えないのか?
介護職員に直接支給されるわけではない
この補助金について厚労省は、「1人当たり月額平均9000円の賃金引上げに相当する額を対象サービスごとに介護職員数に応じて必要な交付率を設定し、各事業所の総報酬にその交付率を乗じた額を支給する」と説明しています。
ここでポイントとなるのが、「各事業所に支給する」ということです。そう、この補助金は事業所単位で交付されるのです。いったん「事業所」というフィルターを通して各個人に配られるわけですから、国から直接介護職員に月9000円が配られるわけではないのですね。
事業所が間に入ることによって、事業所ごとに対応の差が生じるわけです。たとえば、この補助金を申請しない事業所もあるでしょう。事業所が申請をしなければ当然補助金は入ってきませんので、介護職員のもとへは届きません。また、補助金の申請をした場合でも、事業所の方針により事務職員やケアマネなど、介護職員以外の職員も賃上げをしようとする場合、介護職員の賃上げ額は減ってしまいます。
これに関して国のほうでも、“事業所の判断により、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める”と、この補助金の分配方法について事業所の裁量を認めていますので、ルール上問題はないのです。
このように、介護職員への直接支給ではなく事業所に支給されます。それによって事業所により対応にばらつきが生じるため、介護職員を一律月9000円賃上げすることができないというわけです。
交付率の低さ
介護職員の給料が月9000円も増えない理由は、もうひとつあります。それは、補助金の交付率の低さです。この補助金の支給額は交付率に基づいています。この交付率は厚生労働省が定めたものであり、どう決められたかは明らかにされていません。実はこの補助金の交付率、とても低く設定されており、事業所側が介護職員に月9000円の賃上げをしたいと思っていてもできないようになっているのです。
たとえば、総報酬が月800万円のデイサービスがあるとします。デイサービスの交付率は1.0%ですから、800万円の1.0%である8万円が補助金として事業所へ入ります。事業所はこの8万円を介護職員へ分配するわけですね。では、この8万円という額ははたして適切な額といえるのでしょうか?
もしこのデイサービスの介護職員が9人だった場合、1人当たりの支給額は8888円となり9000円を下回ってしまいます。ですから、この8万円を介護職員1人当たり9000円以上分配するには、介護職員は8人以下である必要があります。
実は、わたしの働くデイサービスがちょうどこのくらいの規模です。わたしのデイサービスには12人の介護職員がいます。人員配置は他よりも手厚いほうだと思いますが、シフトを組んでなんとかやり繰りしています。これがもし介護職員8人で回すことになったらどうでしょう?まず送迎が回らなくなります。そして、職員の有給休暇は取れなくなります。さらに、利用者の事故も増えてしまうでしょう。想像するだけで恐ろしいです…。
そのくらい介護職員数を切り詰めないと、この交付率では月9000円に届かないのです。この交付率を厚生労働省がどう決めたのかはわかりませんが、現場目線で見たときにこの交付率はだいぶ低い数値であるといえます。
今後の賃上げも期待できない
介護職員処遇改善支援補助金が実施されたとはいえ、多くの事業所でいまだ介護職員の給料は低いままです。そもそも、賃上げ額が月9000円という設定が妥当ではないと思いますし…。
岸田政権発足時、介護職員は全産業の平均よりも月6万円以上低いと言及していたにもかかわらず、ふたを開けたらなぜか月9000円へ目減りされ、さらにその9000円すら賃上げできないという現実ですから、これでは賃上げを期待するほうが無理でしょう。本気で賃上げをする気はないのだな…と、やっぱり思ってしまいます。
賃上げという明るいニュースかと思いきや、その実情はなかなか厳しいものとなっています。そんな逆風吹き荒れる中でもわたしたち介護従事者は、なんとかやっていくしかないわけですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
生活相談員ラボではこの記事のほかにも、生活相談員の役に立つ記事を取り揃えております。
本を読むなら電子書籍の〈Kindle〉がおすすめです。さらに月額980円の〈Kindle Unlimited〉なら対象の本12万冊が読み放題。
Kindle Unlimited(キンドル アンリミテッド)
「本を読みたいけど時間がない」という方には、〈Amazonオーディブル〉という「耳で読む」本がおすすめです。月額1,500円で12万以上の作品が聴き放題。