【介護保険の闇】物価高でも上がらない基準費用額とショートステイの限界
2026年8月に介護保険負担限度額の改定が行われます。
今回の改定は、国(厚労省)が進める「介護保険の持続可能性」のための措置、つまり財政を逼迫させないための自己負担増と言われています。しかし、現場の最前線にいると、この制度が抱えるもう一つの、より深刻な歪みに危機感を覚えざるを得ません。
今回は、物価高に苦しむショートステイの現場と、制度の矛盾がもたらす「最悪の未来」についてお話しします。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
デイサービスとショートステイで、利用者・家族・職員の“間”に立ちながら日々奮闘しています。
現場で感じた違和感や気づきを言葉にし、「学び続ける相談員」を目指して情報発信中。
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施設独自に値上げをしても、事業所に入らない現実
いまや、食材費、電気・ガス代、リネン代、人件費と、あらゆるコストが爆発的に高騰しています。 1日わずか1,500円程度で部屋を提供し、食事を作り、24時間の介護体制を維持する……。異業種のホテルや飲食店を見れば、これがどれほど無理な数字かは一目瞭然です。
そのため、多くの施設が苦渋の決断として、「施設独自の上乗せ料金」を設定し、なんとか経営を維持しようとしています。
しかし、ここに大きな罠があります。
一般の利用者であれば、物価高に見合ったその「上乗せ分の利用料金」を支払ってくれます。しかし、「負担限度額認定(補足給付)」を受けている低所得の方を受け入れた場合、その上乗せ分はバッサリと切り捨てられてしまうのです。
なぜ収入が下がってしまうのか?
限度額認定の方の場合、利用者は定められた限度額を事業所に支払い、足りない分は国(保険者)から「補足給付」として事業所に支払われます。
一見、帳尻が合っているように見えますが、保険者が補填してくれるのは、あくまで国が定めた目安である「基準費用額」まで。
つまり、施設がどれだけ物価高に合わせて適切な料金を設定していても、限度額認定の方を受け入れた瞬間に、事業所に入る収入は「基準費用額」という低い天井で頭打ちになってしまいます。差額を誰も補填してくれないため、すべて事業所の持ち出し(減収)になってしまうのが今のルールです。
「基準費用額」が引き上げられる見込みは薄い
「だったら、物価高に合わせて国が『基準費用額』を引き上げてくれればいいじゃないか」
当然の疑問ですが、残念ながらその見込みは極めて薄いと感じています。
なぜなら、国(厚労省)の最優先事項は「介護保険財政の支出を抑えること」だからです。もし国が基準費用額を引き上げれば、国や自治体が支払う補足給付の総額が増えてしまいます。財政難を理由に利用者の自己負担を増やしている国が、自らその支出を増やすような舵取りをするとは到底思えません。
コストは上がり続けるのに、収入の天井(基準費用額)は一昔前のまま据え置き。 この一見して不条理な格差が、今まさに現場で広がっています。
待っているのは「事業所による利用者の選別」か
経営が苦しくなればなるほど、施設としては生き残るために合理的な判断をせざるを得なくなります。
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一般の利用者: 適正な料金が入るため、受け入れるほど経営が安定する
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限度額認定の利用者: 受け入れるほど「基準費用額」との差額で赤字(または減収)になる
となれば、今後何が起きるかは火を見るより明らかです。 経営のために「一般の方を優先してベッドを埋め、限度額認定の方の受け入れを制限する」という、事業所による利用者の選別が始まってしまいます。
経済的に困窮している方を支えるためのセーフティネットであるはずの「負担限度額認定制度」が、基準費用額の据え置きによって、逆に「低所得者ほどショートステイから締め出される」という本末転倒な構造を加速させているのです。
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現場の「善意と根性」に頼る経営の限界
今のショートステイは、「困っている低所得の方を断りたくない」という生活相談員の葛藤や、地域福祉を支えるという事業所の「善意」だけで、なんとかベッドを維持している状態です。つまり、事業所が泣いているのが現状です。
国は「持続可能性」を免罪符にしていますが、現場や弱者を犠牲にして成り立つ持続可能性に、一体何の意味があるのでしょうか。
利用者の負担を増やすだけでなく、事業所に支払われる補填の基準(基準費用額)そのものを物価に合わせて柔軟に引き上げなければ、遠からずショートステイという仕組み自体が足元から崩れてしまうのではないかと、強い危機感を抱いています。
皆さんの施設では、この「限度額認定と基準費用額の壁」にどう向き合っていますか? ぜひコメントやSNSで現場の声を聞かせてください。
