2025年度の最低賃金は全国平均で時給約1,118円(前年より約63円増)と、大幅な引き上げとなりました。
賃上げは労働者にとって朗報のように聞こえますが、介護業界においては必ずしも手放しで喜べる状況ではありません。
なぜなら、介護報酬(サービス価格)は国が決める公定価格であり、民間企業のように人件費増加を料金にそのまま転嫁できないからです。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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現場で起きる変化
最低賃金の引き上げは、パートや非正規職員の収入アップにつながります。これにより生活の安定やモチベーション向上が期待でき、採用条件としても一定の改善効果があります。
しかし、その一方でこんな懸念もあります。
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仕事内容が比較的楽な他業界へ人材が流れる可能性
時給が横並びになると、「肉体的・精神的負担の重い介護」より、「負担の軽い販売・軽作業」を選ぶ人が増える可能性があります。 -
資格や経験の価値の希薄化
未経験者と有資格者の時給差が縮まり、「頑張って資格を取っても報われにくい」と感じる職員が出てくるかもしれません。
経営側の苦境
介護報酬は3年ごとの改定が基本で、最低賃金のように毎年自動で上がるものではありません。
このため、人件費の上昇分をカバーできず、小規模事業所や赤字運営の施設では経営の圧迫が深刻化します。
さらに、近年は光熱費や食材費も高騰しています。給食の質を落としたくても落とせず、利用者サービスを維持しながら経営を続けるには限界があります。
結果として、シフト削減や雇用の見直し、場合によっては事業撤退といった判断を迫られる事業所も出てくるでしょう。
他業界との人材争奪戦
近年、物流業や小売業など他産業も最低賃金引き上げの影響で時給を上げています。
介護職の「肉体的負担・精神的ストレス・責任の重さ」を考えると、時給が同水準なら負担の軽い仕事を選びたいと思うのは自然な流れです。
こうした状況は、慢性的な人手不足に拍車をかけます。人材確保のためには、賃金だけでなく「働きやすさ」や「成長できる環境」の整備がますます重要になってきます。
個人にとってのメリットとリスク
最低賃金引き上げは、短期的には収入増というメリットをもたらします。
しかし長期的に見ると、
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勤務時間削減による実質収入減
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事業所の閉鎖や人員削減
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職場環境の悪化
といったリスクも存在します。
つまり、個人にとっても「給料が上がったから安心」ではなく、将来を見据えてスキルアップや資格取得を行い、自分の市場価値を高める動きが必要です。
政府の対策は?
ここからは私見ですが、国が今後この問題に対して抜本的な対策を取る可能性は高くないと考えています。
介護報酬を毎年改定する仕組みや、特定の業界に最低賃金を上乗せする「特定最低賃金制度」なども議論はありますが、制度設計や財源確保は難航が予想されます。
特定最低賃金とは?介護業界への導入で職員の給与は本当に上がるのか
結局、現場は「自助努力」と「限られた制度」の中でやりくりするしかない状況が続くでしょう。
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まとめ
最低賃金引き上げは、介護職員にとって一時的な追い風となる一方で、業界全体には強い逆風をもたらします。
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他業界への人材流出
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価格転嫁できない構造による経営疲弊
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資格・経験の価値低下
国の支援が大きく動かない中、事業所は経営改善や働きやすい環境づくりで人材確保を図り、個人はスキルや資格で自分の価値を高める。
その両輪がなければ、最低賃金引き上げは介護業界の衰退を加速させる要因にもなりかねないでしょう。

