介護・福祉情報

特定最低賃金とは?介護業界への導入で職員の給与は本当に上がるのか

※当サイトではアフィリエイト広告を使用しています

介護業界では慢性的な人手不足が問題となっており、その大きな要因のひとつが低賃金です。政府はこの問題を解決するためにさまざまな施策を講じてきましたが、依然として厳しい状況が続いています。

そんな中、最近注目されているのが「特定最低賃金」の導入です。特定最低賃金が介護業界に適用されれば、本当に給与は上がるのでしょうか?また、それに伴う課題はないのでしょうか?

本記事では、特定最低賃金の概要や介護業界への影響、そしてその問題点について詳しく解説します。

この記事を書いた人

takuma

生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)

Xにほぼ毎日投稿しています。

職業情報サイトへ生活相談員に関する記事提供実績あります。その他介護情報サイトへ記事提供実績もあり。

・kindle出版で『 対人援助一年目の教科書: 現役のプロが書いた実践で役立つスキルと心構え』発売しています。

詳しい自己紹介はこちら

takuma
takuma
「生活相談員ラボ」では、「生活相談員×学び」をコンセプトに、介護・福祉に関する情報発信をしています。

 

Check it out!

「対人援助一年目の教科書」 Kindleにて好評発売中です!

対人援助一年目の教科書: 現役のプロが書いた実践で役立つスキルと心構え

特定最低賃金とは?

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。地域別最低賃金は、都道府県ごとに設定され、すべての労働者に適用される最低限の賃金です。2025年4月現在、全国の平均最低賃金額は1,004円となっています。(参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

一方、特定最低賃金は、特定の業種や職種に対して設定され、地域別最低賃金よりも高い基準が定められています。この制度は、関係する労使の申出をもとに最低賃金審議会が調査・審議を行い、必要性が認められた場合に導入されます。これまで製造業や鉄鋼業などに適用されてきましたが、介護業界には導入されていませんでした。2025年現在、全国で約224件の特定最低賃金が設定されています。(参考:厚生労働省「特定最低賃金について」

特定最低賃金の概要をまとめると、以下の通りです。

特定最低賃金の主な特徴
  • 対象:特定産業の労働者
  • 目的:賃金格差の是正、産業の魅力向上、労働力確保
  • 罰則:使用者が特定最低賃金を下回る賃金を支払った場合、最大30万円の罰金が科される

なぜ介護業界に特定最低賃金が検討されているのか?

2025年3月17日の参議院予算委員会で、石破茂首相は介護などを担うエッセンシャルワーカーや成長産業分野での人材確保に向け、特定最低賃金の導入を検討する考えを示しました。(参考:YAHOO!ニュース「介護分野へ特定最低賃金を検討 首相「政治主導で判断」」

その後3月21日、福岡資麿厚生労働大臣も、介護分野などにおける特定最低賃金の導入について、検討する考えを示しています。(参考:YAHOO!ニュース「介護分野に「特定最低賃金」導入を検討 福岡厚労大臣が表明」

これにより、介護業界にも特定最低賃金が適用される可能性が出てきました。

介護職の賃金は全産業平均よりも低い水準にあり、人手不足が深刻化しています。そのため、特定最低賃金の導入によって給与水準を引き上げ、人材確保につなげることが狙いとされています。政府としても、介護職の待遇を改善しなければ、今後さらに人手不足が深刻化し、介護サービスの維持が困難になると危惧しているのです。

介護事業所にとっての問題点

しかし、特定最低賃金が導入されることには問題点もあります。

財源の問題

介護職の給与を上げるには、事業所側がその財源を確保しなければなりません。しかし、現在の介護報酬では介護職の給与を上げる余裕がなく、賃上げの原資を確保するのは困難です。単純に特定最低賃金を引き上げるだけでは、経営が圧迫される事業所が増えてしまいます。

事業所の倒産リスク増

十分な財源が確保されないまま最低賃金だけを引き上げると、事業所の経営が圧迫され、倒産するリスクが高まります。特に、小規模の事業所ほど影響を受けやすく、結果的に介護サービスの提供自体が難しくなる可能性があります。サービスが維持できなければ、最終的に介護を必要とする高齢者やその家族が困ることになります。

政府の対応は十分か?

特定最低賃金の導入は、介護職の給与改善の一手段としては有効ですが、それだけでは十分ではありません。

介護報酬の引き上げが不可欠

特定最低賃金が上がっても、介護報酬の引き上げがなければ事業所の負担が増えるだけです。現時点では、2024年度に介護報酬改定(+1.59%)が実施されましたが、この水準では特定最低賃金による事業所負担をカバーするには不十分といえます。

他業界との差

仮に特定最低賃金が設定されても、他業界の給与水準の方が高ければ、人材の流出は防げません。介護職の待遇を本当に改善するには、最低賃金だけでなく、労働環境やキャリアパスの整備も必要です。

生活相談員ラボは「生活相談員×学び」がコンセプトのブログです

生活相談員の基礎知識はこちら

おすすめ書籍はこちら

さらに深く学ぶなら

本気で学ぶケアスタッフのための総合オンラインセミナー.『ケアラル』

社会福祉士に合格する人の講座【合格必勝Web講座】

介護の資格・転職なら

介護・福祉・医療の資格を取るなら『シカトル』

介護の転職なら『介護求人ラボ』

まとめ

特定最低賃金の導入は、介護業界の賃上げを促進するひとつの手段ですが、それだけでは根本的な問題は解決しません。介護報酬の大幅な引き上げ等による、事業所の経営支援が必要不可欠です。現場の実態を考えずに特定最低賃金を導入すると、多くの事業所が「賃金は上げたいが資金がない」というジレンマに陥るでしょう。結局のところ、財源確保なしに賃金だけを上げろというのは、事業所に無理やり負担を押し付けるだけの政策になりかねません。

さらに、特定最低賃金の導入が事業所の経営を圧迫すれば、人員削減やサービスの質の低下といった負の連鎖を引き起こす可能性もあります。最低賃金を上げて「はい終わり」ではなく、それと合わせて事業所の経営基盤を支える施策を講じることで、介護職の賃金向上を持続可能なものにすることが、政府に求められているのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。