こんにちは。生活相談員のtakumaです。
日々の支援業務の中で、「自己決定の尊重」という言葉に触れる機会は多いのではないでしょうか?
しかしこの言葉、なんとなく使っていますが、その意味を深く理解している人は意外と少ないように感じます。
特に、「尊重」と「遵守」との違いを混同してしまうと、支援者としての判断を誤ることにもつながりかねません。
この記事では、「自己決定の尊重」と「遵守」の違いに焦点をあてながら、現場での適切な支援の考え方を整理していきます。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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「尊重」と「遵守」は意味が違う
まず言葉の定義を確認しましょう。
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尊重:尊いものとして重んじ、大切にすること
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遵守:決まりやルールを守り、従うこと
一見似たようなニュアンスを感じるかもしれませんが、この2つには大きな違いがあります。
たとえば、「自己決定の尊重」とは、本人の意思や選択を大切に扱うという意味です。
それに対して「自己決定の遵守」となると、本人の意志を必ず守り、従うことになります。
つまり、「尊重」はあくまで“姿勢”であり、「従うことを前提とした義務」ではないのです。
自己決定=希望通りにすればいい、ではない
実際の現場では、利用者本人の希望をすべて叶えることが難しい場面も多々あります。
たとえば──
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「お風呂は入りたくない」
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「薬は飲みたくない」
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「夜中に散歩に行きたい」
こうした希望を100%実現させてしまえば、健康や安全を損なうリスクが高まります。
ここで大切なのが、「自己決定の尊重」という考え方です。
本人の気持ちを無視するのではなく、「なぜそう思うのか」「どうすればその思いに少しでも近づけるのか」を考える姿勢が、支援者には求められます。
「できない」と言う前に、“気持ち”をくみ取る
「それはできません」と突き返す前に、まずその背景にある気持ちを探ってみましょう。
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なぜお風呂に入りたくないのか?
→ 以前転倒した経験があって怖いのかもしれない。 -
なぜ薬を飲みたくないのか?
→ 副作用を感じていたり、効いていないと思っているのかもしれない。 -
なぜ夜中に外に出たいのか?
→ 昔の習慣が抜けておらず、日中と夜の区別がつかなくなっている可能性も。
このように、希望の奥にある“理由”や“感情”を理解しようとする姿勢こそが、「尊重」につながります。
支援者の腕が問われるのは“折り合いのつけ方”
支援者に求められるのは、希望と現実のバランスをどう取るかです。
言い換えれば、「どこまでなら本人の希望に応えられるか」「どうすれば本人の納得感を得られるか」を探る作業です。
そのためには、以下のような視点が有効です
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代替案を提示する:「今日ではなく、明日お風呂にしませんか?」
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共感を伝える:「入りたくない気持ち、わかりますよ」
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情報を補う:「この薬は●●のために必要なんです」
一方的に拒否するのではなく、対話を重ねるプロセスこそが、「自己決定の尊重」を具体的に形にする手段になります。
「尊重」は、支援の土台であり信頼の礎
自己決定の尊重は、本人の意思を大切にするという意味にとどまりません。
それは「この人は自分の気持ちをちゃんと聴いてくれる」という信頼関係の礎でもあるのです。
どれだけ現実的にすべての希望が叶えられなくても、気持ちをくみ取る努力があれば、支援者としての信頼は築かれていきます。
そしてその信頼があるからこそ、本人も納得して“少しの我慢”や“妥協”ができるようになるのです。
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まとめ|自己決定の「尊重」とは、気持ちをくみ取る姿勢
改めてまとめます。
- 自己決定の「尊重」とは、大切に扱うこと。
- 「遵守」のように、必ず従う義務ではない。
- 本人の希望が現実にそぐわないときも、「どう折り合いをつけるか」が支援者の腕の見せどころ。
- 対話と理解を通して、本人の納得を引き出す姿勢が、信頼関係の土台となる。
自己決定を「尊重する」とは、すべての希望を叶えることではなく、一緒に最善の道を探すことです。その姿勢こそが、わたしたち支援者に求められている本質的な役割だと、わたしは思います。