介護保険を利用して受けられるサービスのひとつに、ショートステイがあります。ショートステイは、介護が必要な方が介護施設に短期間宿泊し、必要な介護を受けることができるサービスです。
このショートステイというサービス、利用者本人が希望して利用するというケースは少なく、介護者である家族の意向によって利用することがほとんどです。本来なら本人の意向に沿って利用されるはずのショートステイですが、実際には家族の意向が優先されてしまう…。支援する側としてはジレンマを感じる部分ですよね。
この矛盾に対し、支援者としてどう関わっていけばいいのでしょうか?この記事では、そんな自己決定の理念をめぐるショートステイの現実を深掘りしていきたいと思います。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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ショートステイを利用する理由とは?
ショートステイを利用する背景には、家族の介護負担の軽減や緊急時の対応など、さまざまな事情があります。これらの理由は家族が介護を続けるうえで必要不可欠なものであり、ショートステイは介護者にとって重要な役割を果たしています。
しかし、利用者本人が「行きたい」と望むケースは少なく、むしろ家族などの介護者の意向で決まることが多いのが現状です。ショートステイを利用することに対し利用者本人は納得していないにもかかわらず、気持ちの整理がつかないまま利用を決められるケースも少なくありません。
自己決定の理念とショートステイの現実
本来、介護サービスを利用するためには、利用者本人の「自己決定」が必要です。対人援助の基本原則として知られている「バイスティックの7原則」においても、「自己決定の原則」が掲げられています。
「自分のことは自分で決める」という自己決定の原則は、利用者が自分の意思で生活やケアの選択を行うことで尊厳を保つことができ、生活の質を向上させるために不可欠とされています。ですが、ショートステイにおいては、この自己決定の理念と現実との間に大きなギャップが存在します。
たとえば、高齢者の二人暮らし世帯では、一方が要介護状態になると介護を担う側も高齢であるため、介護者の心身に大きな負担がかかってしまいます。その負担を軽減するために、ショートステイは非常に効果的なサービスです。
介護を受ける本人がショートステイの利用に理解を示してくれればよいのですが、現実には「ショートステイには行きたくない」と意思表示されることが多く見られます。そして、利用者本人は「行きたくない」と意思表示しているにもかかわらず、多くのケースで本人の意向に反してショートステイが利用されているのが現実です。
かといって、本人の意向に沿ってショートステイを利用しないで暮らすとなると、介護者の負担が大きくなり、本人を含む家族全体の生活が脅かされてしまうわけです。本人も介護者も「共倒れ」というバッドエンドは避けたい。こうした理由から、本人の意向に反してショートステイというサービスを選択する、というジレンマが発生します。
このジレンマを支援者はどう受け止め、どう解決していくべきなのでしょうか?
「嫌だけど仕方ない」と思ってもらうために
「嫌だけど渋々泊まりに行く」
なにもこれはショートステイに限ったことではなく、たとえば職場の飲み会なんかでも同じようなことが言えます。自分から積極的に参加したいわけではなくても、さまざまな事情から「行かなければならない」ことがありますよね。ショートステイに行くことも、これと似ているかもしれません。
その状況で支援者ができることは、飲み会の幹事として参加者に楽しんでもらおうと手を尽くすことです。つまり、利用者が「行きたくない」と感じているときに、その不安や嫌な気持ちを少しでも軽くできるように手を尽くすわけですね。利用者が少しでもポジティブな気持ちでショートステイを利用できるよう、あらゆる手を使ってできる限りのサポートをする必要があります。
支援者=飲み会の幹事
このマインドを持って、ショートステイに少しでも楽しみを感じてもらい、「行きたくない」という利用者の気持ちを少しでもポジティブに向けていきたいものですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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