インフルエンザや新型コロナウイルスといった感染症が流行するこの季節。ショートステイの事業所がいつも以上に力を入れるのが、施設内の感染予防です。
事業所側としては施設内で感染者を出したくありませんから、利用者の体調管理やスタッフの健康チェック、手洗いや消毒の徹底、換気など、基本的な感染対策を強化するのはもちろんのこと、利用者の受け入れに対する判断も慎重になります。
しかし、ショートステイが利用者の利用を断るためには、それなりの理由が必要になります。単に「感染疑いがある」という理由だけで一方的に受け入れを拒否してしまうと、「正当な理由」とみなされないこともあるため注意が必要です。
では、ショートステイ事業所は具体的にどのような基準で受け入れの可否を判断すべきなのでしょうか?この記事で解説していきたいと思います。
takuma(@takuma3104 )
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)。
デイサービスとショートステイの「生活相談員」という仕事を10年以上続けています。
このサイト「生活相談員ラボ」では、「現役の強みを生かした現場感覚のある情報発信」をコンセプトに、生活相談員をはじめたばかりの人やこれから生活相談員になる人の役に立つ記事を書いています。
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ショートステイがサービス利用を拒否できる正当な理由とは?
ショートステイの事業所は、原則として利用希望者の受け入れを拒否することはできません。しかし、「正当な理由」がある場合には、例外として受け入れを拒否することが認められています。
厚生労働省の解釈通知によると、事業所がサービスを拒否できる「正当な理由」は以下の通りです。(参考:「厚生労働省 解釈通知–居宅 予防」)
- 定員超過
- 通常の事業の実施地域外
- その他適切なサービスが困難な場合
定員超過
介護保険法では、事業所の定員を超えて利用を受け入れることが認められていません。そのため、ショートステイがすでに利用定員に達している場合は、受け入れをお断りすることが認められています。
通常の事業の実施地域外
ショートステイ事業所は、指定を受けた地域内でのサービス提供を原則としています。利用希望者がその地域外に住んでいる場合、事業所は受け入れを断ることができます。
その他適切なサービスが困難な場合
上記2つの理由の他に、事業所として適切なサービスが難しい場合は、受け入れを拒否することが可能です。
具体的には、「利用者が著しく重度な医療ケアを必要とし、施設で適切に対応できない場合」や「利用者やその家族が施設運営に支障をきたす行為を繰り返す場合」などが該当します。
ショートステイの利用希望者がインフルエンザやコロナウイルスにかかっている場合も、このケースに含まれるため、受け入れ拒否が可能です。
では、本人は感染していないものの、同居の家族がインフルエンザにかかり本人に感染の疑いが生じているという場合は、利用を断る正当な理由とみなされるのでしょうか?
感染症の「疑い」だけでサービス利用を断れるか?
結論から言うと、感染の疑いがあるというだけでサービスの利用を断ることは基本的にできません。
厚生労働省から発出されている「介護保険最新情報Vol.920」には、「感染が拡大している地域の家族等との接触があり新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由にサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由には該当しない」と書かれています。つまり、感染の「疑い」だけでサービス利用を断ることは基本にできないということです。
万が一感染拡大してしまったら?
「感染疑いではショートステイの受け入れを断れない」ということで話を終わらせてしまうのは簡単ですが、ここではもう一歩踏み込んでいきたいと思います。
というのも、感染症には潜伏期間があるため、入所時には問題なかったとしても、ショートステイ利用中にインフルエンザを発症してしまう場合があるからです。
その人だけの発症ならまだしも、ショートステイ内で感染が広がってしまうと、他の利用者や施設スタッフに多大な被害を与えてしまうことになります。感染リスクのある人を受け入れた結果、ショートステイは大ダメージを受けてしまうわけですね。もちろん事業所に何か補償があるわけでもありません。
受け入れ拒否できないルールだからと素直に受け入れた結果、ショートステイ事業所はここまでの不利益を被ることになる可能性があるのです。感染疑いの方を受け入れることは、ショートステイにとって大きなリスクだと言えるのではないでしょうか。
ショートステイの安全をどう守るか?
感染疑いの利用者を受け入れ拒否することはできない。かといって、受け入れるにはリスクが高い。
ではショートステイ事業所はどのようにして既存の宿泊者やスタッフを守っていけばいいのでしょう。
グレーな対応ではありますが、事業所によっては、受け入れ拒否の正当な理由である「その他適切なサービスが困難な場合」を拡大解釈してお断りすることもあるでしょう。現実的な対応として、この対応は比較的よく見かけます。
いつも上手くいくわけではありませんが、わたしの場合は、感染疑いの利用者を受け入れた場合、感染拡大して最悪ショートステイが営業停止になる場合もあることを、家族やケアマネに説明します。その上で、施設側からではなく相手のほうから利用をキャンセルしてもらう形を取ります。「利用拒否」でなく「利用希望取り下げ」にするわけですね。
強引なやり方かもしれませんが、ショートステイの利用者やスタッフの安心安全を考えると、やむを得ない対応ではないでしょうか(これに関しては個々人で意見が分かれるところだと思います。)。
法令遵守はもちろん大事なことですが、法令遵守それ自体を目的にしてしまうと、大局を見失うおそれがあります。ここで言う大局とは、利用者の受け入れをどうするかではなく「ショートステイ全体の安全をどう守るか」ということです。
ルールだからといって一律に従うのではなく、そのルールをどう扱っていくかその都度個別的に考え判断していくことが、本件に限らず大事なことではないかとわたしは思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。