私の住んでいるところは、今日は雨です。
こんな雨の日、デイサービスのスタッフにとって憂鬱になるもののひとつに、送迎業務があります。
服はズブ濡れ、靴下はビチョビチョ
「利用者様を雨に濡らしてはいけない」というプレッシャー…
なかなか大変な業務です。
一般的に、デイサービスには送迎のサービスがセットになっています。
送迎のサービスがあることで、高齢者のかたでも安全に通うことができ、ご家族のかたも安心、と一般的には思われているかもしれません。
が、はたして本当にそうなのでしょうか?
実際、デイサービスの送迎には危険がいっぱいです。
ここでは、そんなデイサービスの送迎リスクの裏事情についてお伝えしたいと思います。
送迎における3つのリスク
シロウトが運転している
タクシーなど、お金を貰って乗客を運送するためには、普通第二種免許(二種免許)が必要です。
なんてったって人様の命を預かって、お金までもらうわけですから、それ相応の知識と技術を持っていなければできませんね。
人様の命を預かって、お金をもらっているということについては、デイサービスの送迎も同様です。
デイサービスを利用するのはタダではありません。
利用料をいただいたうえで、送迎を含むサービスを提供しているのです。
では、デイサービスの送迎スタッフは、みんな二種免許を持っているのでしょうか?
答えは、「ノー」です。
あれ?
おかしいですね?
そうなんです。
デイサービスは、第一種免許を持っていれば、誰でも送迎サービスに携わることができるのです。
ここでは詳しく解説しませんが、二種免許を持っていないシロウトでも、デイサービスの送迎を行ってよい制度になっているのです。
いくら制度上はOKになっているとはいえ、シロウトに送迎をされる身になって考えると、気が気じゃないですよね。
スタッフの運転技術教育に力を入れている事業所もあるとは思いますが、基本的には運転技術を個人の努力に委ねている事業所が多いです。
スタッフの人手不足とも重なって、入社してすぐのスタッフがペーパードライバーや、免許取り立て初心者ドライバーであったとしても、即送迎業務に携わらなければならないということだって珍しくありません。
また業態的に、デイサービスのスタッフは男性より女性が多いです。
一般的に、女性のほうが男性よりも運転が不得意ですので、介護は得意だけど運転は苦手というスタッフも少なくありません。
「運転が苦手なら、特養とか送迎のないところで働いたらいいじゃないか」
と思われるかもしれません。
しかし、特養のような施設系のサービスは、「夜勤」がついて回ります。
夜勤のできないママさんスタッフたちは、おのずと日勤だけのデイサービスを選ばなければならない、という構造になっているのです。
時間に追われている
「送迎は時間内に行わなければなりません」
当たり前に聞こえるかもしれませんが、実はこれ、実行するのが非常に難しいです。
送迎は、あらかじめ作成されたルートに基づいて、決められた時間に決められたお宅にお迎えに行きます。
しかし、いつもいつもスムーズに事が運ぶとは限りません。
例えば、雨の日には道が渋滞しますし、利用者が雨で濡れないように傘やカッパを使用しなければなりません。
その分時間がロスします。
初めてのお宅にお邪魔するときは、地図やカーナビを頼りにしても、場所が分からず迷うものです。
利用者宅にお迎えに伺うと
「まだ準備が…」
「今ちょうどトイレに…」
日常茶飯事です…
こういった時間のロスの積み重ねが、お迎え時間のズレを生み、送迎スタッフの焦りにもつながるのです。
利用者によっては、時間にとてもこだわりのある方や、訪問ヘルパーとのバトンタッチの関係で指定時間に到着しないといけないというような方もいます。
わたしもよく経験しますが、お迎えの時間が遅くなると、利用者やその家族からの「遅かったね」という言葉がチクチクと胸に刺さるのです。
事業所の看板をしょっていますから、必要以上に法定速度は遵守します。
しかし、内心は焦りまくりです。
そんなこんなで日々時間に追われ、メンタルをすり減らしながら送迎をします。
というのも、デイサービスは利用者の施設滞在時間によって料金が決められているため、決まったサービス提供時間内には利用者を事業所にお連れしなければなりません。
例えば9時から16時までの7時間がサービス提供時間であったら、『7時間以上8時間未満』という料金枠です。
これが、9時半から16時までの6時間半になってしまうと、『6時間以上7時間未満』という料金枠になってしまい、単価が下がってしまう、というわけです。
そのため、送迎時間はピタピタで動く必要があるのです。
利用者に気を配らねばならない
利用者宅にお迎えに行き、乗車してもらった後も、送迎スタッフは気が抜けません。
安全運転をしながら、同時に利用者への気配りをしていく必要があるからです。
「さっき車に乗るとき、足取りがいつもよりふらついていたなぁ」
「顔色が普段よりすぐれないなぁ」
といった、体調面の確認は怠れません。
また、事業所についたらそれを他スタッフへ申し送らなければなりませんので、忘れないようにメモっておく必要があります。
また、ただ黙って乗っているだけでは退屈させてしまいますので、気の利いた話のひとつくらいはしなければならないでしょう。
同乗された利用者同士が楽しく話せるようにや、会話がこじれてトラブルにならないように、車内の雰囲気を調整するという役割もあります。
送迎スタッフはただ安全運転をすればよいだけでなく、運転をしながら利用者を観察して、メモを取り、車内を盛り上げるといったことをしなければなりません。
このように複数の作業を同時進行させることを、マルチタスクといいますが、マルチタスクは人間の注意力不足を引き起こし、エラーを引き起こしやすい状態を作ります。
デイサービスの送迎業務は、運転だけに集中することができず、事故を引き起こすリスクが高いといえるでしょう。
「運転手の他にもうひとり助手をつけて、ふたりで回ったらよい」
という、至極当然な意見が出てくると思います。
しかし、デイサービス事業者はどこもカツカツです。
限られた人件費でスタッフを雇わなければなりませんので、そこまで手厚いスタッフ配置になんてできないのが現実でしょう。
リスクの原因は何なのか?
今挙げた3つのリスクですが、原因はどれも「現行の法制度」によるものです。
一種免許で送迎OKなのも、時間の制約があるのも、最小限のスタッフで回さなければならないのも、全て現行の制度の欠陥によるものです。
しかし、ひとたび送迎車の事故が起きると、メディアは寄ってたかって
「デイサービス事業者が悪い」「運転手が悪い」
と叩き、誰も
「現行の制度が悪い」
とは言いません。
エラい人たちは
「制度を作った我々が悪い」
なんて絶対に言いません。
何が何でも、事業者やいちスタッフの責任に帰せるでしょう。
送迎スタッフは頑張っている!
そのような逆風吹き荒れる制度の中であっても、利用者の生活を作るために、送迎のリスクをあえて受け入れて日々頑張っているのが、デイサービス事業者であり、送迎スタッフである、と思います。
もっと言います。
「デイサービスの送迎は、スタッフ個々人の努力によって成り立っています!」
考えてもみてください。
介護技術の中には「食事介助技術」や「排泄介助技術」などの基本技術が体系化されていますが、「送迎技術」というものは、そもそも体系化されていないのです。
介護スタッフは学校で食事の介助方法は取得できても、送迎のやり方については学ぶ機会すらないのです。
そんなカリキュラムはないですから。
カリキュラムにないものを覚えていかなければならない以上、個々人で努力して覚えるしかないでしょう。
そしてこの点においても国は、自らの責任を放棄しているといえます。
そんな中でも、
「安全に利用者を送り迎えし、さらに満足してもらうためにどうしたらいいか?」
を、送迎スタッフはひとりひとり手探りで考えています。
スタッフは必死になって身を削り、ときには失敗して叱られながらも、送迎スキルを体で覚えていくのです。
このような送迎スタッフの熱意に対して、制度上のバックアップがもし期待できるのであれば、より安全で満足感のある送迎サービスを提供できることでしょう。