生活相談員の基礎知識

ショートステイ中に「帰りたい」と言われたら?自己決定と現実の狭間で

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福祉や介護の現場で、わたしたちが大切にする言葉のひとつに「自己決定」があります。

「自分のことは自分で決める」。バイステックの7原則の一ひとつにも挙げられるこの自己決定が、時にわたしたちを激しく悩ませる「難問」へと姿を変えます。

特にショートステイの生活相談員という立場にいると、この言葉の重みと、それだけでは片付けられない現実の厳しさに直面することが多々あります。

今日は、わたしが日々感じている「自己決定の理想と現実」についてお話ししたいと思います。

この記事を書いた人

takuma

生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)

デイサービスとショートステイで、利用者・家族・職員の“間”に立ちながら日々奮闘しています。
現場で感じた違和感や気づきを言葉にし、「学び続ける相談員」を目指して情報発信中。

・kindle出版で『対人援助一年目の教科書』『学び続ける生活相談員』発売中。

職業情報サイトへ生活相談員に関する記事提供実績あります。その他介護情報サイトへ記事提供実績もあり。

Xでも発信しています。

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このブログ「生活相談員ラボ」では、「生活相談員×学び」をコンセプトに、現場のリアルと学びをつなぐヒントをお届けします。

 

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「自己決定」をそのまま受け入れることが、正解ではないときがある

ショートステイを利用される方の中には、認知症を患っている方も少なくありません。夕暮れ時、あたりが暗くなってくると、不安そうな表情で「家に帰る」と訴え始める方がいらっしゃいます。

「わたしはここに泊まるなんて聞いていない」

「家族が待っているから、今すぐ帰らなきゃいけない」

切実な表情でそう訴えられると、対人援助職としては「その思いを尊重してあげたい」という気持ちが芽生えます。しかし、ここでご本人の言葉通りに「そうですか、ではお帰りください」と対応してしまったら、一体どうなるでしょうか。

予想される「不利益」の連鎖

ショートステイを利用する背景には、必ず「家族の事情」があります。介護者の休養(レスパイト)であったり、急な冠婚葬祭であったり、仕事の都合であったり……。

もしショートステイの独断でご本人を帰宅させてしまったら、家には誰もいないかもしれません。鍵が開いておらず、夜道を彷徨ってしまうリスクもあります。また、急に予定を狂わされたご家族はパニックになり、結果として在宅介護そのものが維持できなくなる(介護崩壊)可能性さえあります。

つまり、目先の「帰りたい」という言葉(表層的な自己決定)を尊重することが、巡り巡って「住み慣れた家で暮らし続ける」という大きな目的(本質的な利益)を壊してしまうことがあるのです。

生活相談員の本質は、泥臭い「調整」にある

わたしたち生活相談員の仕事は、単に契約書を交わすことだけではありません。ご本人とご家族、そして現場スタッフの間に立ち、納得のいく着地点を探し続ける調整こそが本番です。

これが、言葉で言うのは簡単ですが、実際には非常にハードな業務です。

想像してみてください。もし自分が、全く意図しない場所に無理やり泊められることになったら……きっと全力で抵抗しますよね。認知症の方は、新しい環境や状況を記憶に留めておくことが難しいため、一晩泊まるという「ハードル」が驚くほど高く感じられるのです。

そのため、普段は穏やかな方が激昂したり、夜通し訴え続けたりすることもあります。夜になると顔つきが変わってしまう利用者様も珍しくありません。

わたしたちはその強いエネルギーを受け止めながら、 「今日はお泊まりの日ですよ」 「明日になったらお迎えが来ますからね」 と、粘り強くお声がけを続けます。ときにはご家族に電話をし、現状を伝え、どう動くべきかを共に悩みます。

この「調整」というプロセスに正解はありません。 「今日はなんとか泊まってもらおう」と決める日もあれば、「これ以上の滞在はご本人の精神的苦痛が大きすぎる」と判断し、ご家族にお迎えをお願いする日もあります。

「方向づけ」という支援の形

「本人の意思に反して泊まらせるのは、自己決定の侵害ではないか?」 そう自問自答し、罪悪感を抱くスタッフもいるでしょう。しかし、福祉の支援には「方向づけ」が必要な場面があります。

全体の支援が崩れないように、つまり「ご本人のこれからの生活」を守るために、あえて「今はここにいてもらう」という方向に導く。これもまた、プロとしての重要な意思決定です。

「帰りたい」という声に耳を貸さないのではなく、「帰りたいという思いは受け止める。けれど、今は帰さない」という、矛盾を抱えたまま支援を続ける強さが求められるのです。

チームと家族を救う「事前の準備」

こうした困難な場面で、現場が孤立しないためにわたしたちができることがあります。それは、「事前のリスク共有」です。

わたしは契約時、ご家族に必ずこうお伝えするようにしています。

「環境の変化で、ご本人が強く『帰りたい』と仰ることが予想されます。その際、わたしたちは精一杯対応いたしますが、どうしても無理な場合はどうしましょうか?」

あらかじめ「最悪のパターン」を想定し、共通のイメージを持っておく。 これだけで、いざトラブルが起きたとき、現場スタッフもご家族も「あ、あの時に話していたことだ」と、冷静に次のステップ(調整)へ進むことができます。

話し合い通りにいかないことの方が多いのが現実ですが、その「事前の対話」があるかないかで、現場にかかる心理的な負担は大きく変わります。

 

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「自己決定」は、魔法の杖ではありません。 現場では、ご本人の願いを叶えてあげられないことへの葛藤が常に付きまといます。理論と現実の間で揺れ、悩みながら、その都度ベストな「調整」を模索する。

それこそが、相談員という仕事の専門性であり、一番の苦労であり、そして醍醐味なのだと思います。

もし今、あなたが利用者様の「帰りたい」という言葉に胸を痛めているのなら、それはあなたが真摯にご本人と向き合っている証拠です。

ひとりで抱え込まず、チームで、そしてご家族と共に「この人にとっての本当の利益は何だろう?」と悩み続けていきましょう。その悩みこそが、より良いケアへの第一歩になるはずです。