今回のテーマは、現場の人間なら一度は「ややこしいな…」と感じたことがあるはずの「総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)」についてです。
「地域包括ケアシステムの要」なんてキラキラした言葉で語られますが、現場の肌感覚は少し違います。制度の仕組みを整理しながら、わたしたちが直面している「違和感」の正体を深掘りしていきましょう。
そもそも「総合事業」って何?
かつて、要支援1・2の方が利用するデイサービスは「介護予防通所介護」という名前で、国が一律にルールを決める「介護保険給付」の枠組みの中にありました。
しかし、数年前の制度改正でこれが廃止され、市区町村が主体となって運営する「総合事業」へと移行しました。
なぜわざわざ分けたのか?
建前としては、「地域の特性に合わせて、住民同士の助け合いや独自のサービスを柔軟に組み合わせていきましょう」というものです。しかし、現場の相談員として感じる本音は違います。
ズバリ、「膨れ上がる介護費を抑えるために、国が責任を自治体に切り離した(コストカット)」という側面が極めて強いのが現実です。
「事業対象者」の利用は進んでいるか?
総合事業の導入に伴い、新たに「事業対象者」というカテゴリーが誕生しました。 これは、わざわざ時間のかかる「要介護認定」を受けなくても、基本チェックリストで一定の基準に該当すれば、すぐに総合事業のサービス(デイサービスや訪問型サービス)が利用できるという仕組みです。
スピーディーな支援が可能になる理想的なシステムに見えますが、実態はどうでしょうか。
わたしの働くデイサービスでは、事業対象者として直接利用を開始された方は、今のところ「ゼロ」です。
結局のところ、多くのご家族やケアマネジャーさんは、まず「要介護認定」を申請します。そして、要支援1や2という結果が出てから、従来のフローでデイサービスに繋がります。 「認定を受けずにサービスを利用する」というルートは、現場ではほとんど機能していない。これが制度の理想と運用の乖離です。
「地域独自」という名の「丸投げ」
総合事業は市区町村の事業ですから、サービス内容や報酬(点数)、加算のルールは自治体が独自に決めて良いことになっています。
本来であれば、報酬改定の時期には、各自治体が「うちの市ではこういう報酬体系にします!」という独自の告示をしっかり出すべきです。しかし、多くの自治体の対応はこうです。
「厚労省が出している雛形(ひながた)をそのまま使いますので、そちらを見ておいてください」
これでは、何のための「地域独自」なのか分かりません。国が示した雛形を右へ倣えで追いかけるだけで、自治体としての明確なビジョンや独自の報酬体系が示されない。 現場の人間は、「どのコードを使えばいいのか」「加算はどう算定するのか」という判断を、不透明な情報のなかで手探りで行わなければならないのです。
要介護2まで拡大議論?加速する「介護保険の解体」
今、最もホットな議論のひとつが、「要介護1・2のサービスも総合事業に移行させるかどうか」です。
これが実現すれば、要介護1・2の訪問介護や通所介護(デイサービス)も、国の保険給付から外れ、市区町村の事業になります。
-
国の狙い: 介護保険財政の安定化。要介護度が低い層を別枠に追い出し、給付を絞る。
-
現場の懸念: 要介護1・2は、認知症の周辺症状が出始めたり、身体機能の低下が顕著になったりする「最も専門的な介入が必要な時期」です。
ここを「地域のボランティア」や「安価な独自サービス」で賄おうとするのは、あまりに無理があります。結局、専門職が介入できずに状態が悪化し、結果として重度化(要介護3以上)を早めてしまうのではないか。そんな危機感を強く持っています。
まとめ
「地域包括ケアシステム」という言葉は、非常に美しく響きます。住み慣れた地域で、みんなで支え合う。その思想自体は素晴らしいものです。
しかし、そのお題目が「国の負担を減らし、現場や自治体に責任を押し付けるための隠れ蓑」になっていないか。わたしたちは常に冷静な視点を持つ必要があります。
わたしたち相談員の役割は、複雑化する制度をただ受け入れることではありません。 制度の隙間に落ちそうな高齢者の方々を拾い上げ、たとえ仕組みが不十分であっても、その方がその方らしく暮らせる方法を模索し続けることです。
