社会福祉士の資格を取り、急性期病院で医療ソーシャルワーカー(MSW)として歩み始めた新人時代。私には、今でも忘れられない「ほろ苦いデビュー戦」があります。
前日に必死に予習し、覚えたての知識を一生懸命に伝えたはずなのに、ご家族の表情は最後まで曇ったまま。
今回は、わたしが経験した失敗談を通じて、相談援助において「説明」よりも先にすべき大切なことを振り返ります。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
デイサービスとショートステイで、利用者・家族・職員の“間”に立ちながら日々奮闘しています。
現場で感じた違和感や気づきを言葉にし、「学び続ける相談員」を目指して情報発信中。
・kindle出版で『対人援助一年目の教科書』『学び続ける生活相談員』発売中。
・職業情報サイトへ生活相談員に関する記事提供実績あります。その他介護情報サイトへ記事提供実績もあり。
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2年目のデビュー。「何か話さなきゃ」という焦り
新卒1年目は医事課で事務を担当し、2年目から念願のMSWへ異動しました。 とはいえ、当時は「自分に何ができるのか」という明確なイメージが持てないまま、先輩の横でメモを取るだけの日々。
そんな中、ついに「一人で面接に行ってみよう」と背中を押されました。
最初の相手は、退院後に初めて介護保険サービスを検討されているご家族。 わたしは「介護保険のことを聞かれるんだから、ちゃんと答えなきゃ」と、前日から必死に本を読み込みました。申請の流れ、サービスの種類……とにかく知識を頭に詰め込むことで、自分の不安を消そうとしていたのだと思います。
必死の説明。でも、話はどこまでも噛み合わない
面接当日。わたしは暗記してきた介護保険の仕組みを、必死に順序立ててお話ししました。 「まずは市役所に行ってください」「認定調査があります」……。
ご家族は頷いてはくれるものの、その反応はどこか他人事のようでした。 なんとか最後まで話し切り、「市役所へ申請に行く」という結論には着地したのですが、部屋を出る際のご家族の背中を見て、強い違和感を覚えたのです。
「わたしは一通り伝えたはず。でも、この方は全然納得していない……」
先輩からのフィードバック「相手の困りごとは何だった?」
連携室に戻り、先輩に報告した際、こんな問いかけをされました。
「説明はできたかもしれない。でも、そのご家族が『具体的に何に困っているか』は聞けたかな?」
この言葉に、ハッとしました。 わたしは「介護保険制度」を解説することに必死で、目の前の人が抱えている「生活の不安」を一つも拾えていなかったのです。
悩みを知らなければ、情報はただの「音」
たとえば、ご家族が本当に心配していたのが「深いお風呂に入れられるか」だったら、制度の全体像よりも、まず「デイサービスでの入浴」や「手すりの設置」の話が必要でした。
もし「仕事で日中誰もいないこと」が不安なら、ヘルパーさんやデイの組み合わせを一緒に考えるべきでした。
わたしは、相手が「何が不安で、何に困っているのか」を一切深掘りせず、ただ制度の教科書を読み上げただけ。相手からすれば、自分の悩みとは関係ない「一般論」をずっと聞かされている状態だったのです。
相談援助は「聴く姿勢」からしか始まらない
この失敗から学んだことは、今でもわたしの土台になっています。
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「説明」は最後でいい: まずは相手の「主訴(一番の悩み)」を捉える。
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ニーズの深掘り: 「何が一番心配ですか?」という問いかけを忘れない。
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解決の切り口: 相手の悩みに直結する情報だけを、適宜手渡していく。
当時のわたしは、知識という鎧を着込んで武装していましたが、本当に必要だったのは、相手の言葉に耳を傾ける「余裕」だったのだと思います。
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おわりに
相談援助の主役は、制度ではなく「目の前の人の生活」です。 どんなに正しい情報を伝えても、相手の不安に耳を傾けなければ、その言葉は心に届きません。
「焦って説明しなくていい。まずは、ゆっくり話を聴こう」
あの日の自分に声をかけるなら、そう伝えたいです。
今、もし「面接がうまくいかない」と悩んでいる方がいたら、一度説明の手を止めて、相手の「今、一番心配なこと」を聴くことから始めてみませんか?


