介護や福祉の現場では、利用者さんやご家族の困りごとに日々向き合うことになります。
「どうしたらこの問題を解決できるだろうか?」
「この困りごとをなくすにはどうすればいいんだろう?」
そんなふうに考えて、一生懸命向き合う支援者の姿はとても尊いものです。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
「問題を解決すること」だけが、支援のゴールなのでしょうか?
今回は、支援の現場でぜひ意識してほしい「問題を緩和する」という視点について、わかりやすくお話しします。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
・Xにほぼ毎日投稿しています。
・職業情報サイトへ生活相談員に関する記事提供実績あります。その他介護情報サイトへ記事提供実績もあり。
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「解決」を目指すことの落とし穴
たとえば、介護する家族が「もう限界です」と疲れきっていたとします。
この場合、「家族の介護負担をどうすれば解決できるか?」という発想になりますよね。
そして、「じゃあ施設に入所してもらおう」「もう介護を手放してもらおう」といった、原因を取り除く“解決”に目が向きます。
これは決して間違いではありません。問題の根本にアプローチする大事な視点です。
ただし、この考え方にはひとつ注意点があります。
それは、「問題が0にならないと意味がない」と思い込んでしまうことです。
実際には、すべての問題がきれいさっぱり0になることなんて、そう多くはありません。
支援の現場は、白か黒かの二択ではなく、グレーの中でどう良くしていくかの積み重ねなのです。
「緩和」の視点で見えてくる新しい可能性
そこで登場するのが、「問題を緩和する」という視点です。
“緩和”という言葉は少し固く感じるかもしれませんが、簡単に言えば、「今より少しラクになる」「状態をやわらげる」ということです。
つまり、「問題を完全に解決できなくてもいいから、少しでもよくしていこう」という柔らかい考え方です。
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解決:問題の原因そのものを取り除き、完全になくすこと
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緩和:問題の原因は残っていても、その影響をやわらげること
このちがいを意識するだけで、支援の幅はぐっと広がります。
介護負担を「緩和」するとは?
先ほどの例に戻りましょう。
家族の介護負担が大きくて限界を感じている場合、たしかに施設入所は大きな解決策です。
でも、入所が難しいこともありますよね。
そんなとき、「解決できないならもう仕方ない」と諦めてしまうのではなく、
「今より少しだけラクになる方法はないかな?」と考えてみてほしいのです。
たとえば:
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ショートステイを使って、介護から離れる時間をつくる
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デイサービスの利用回数を増やして、在宅時間を減らす
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ヘルパーの訪問時間を増やして、ひとりで対応する場面を減らす
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地域の家族会や支援団体に相談して、気持ちの負担を軽くする
これらはすべて、「完全に解決するわけではないけれど、今よりも負担が軽くなる方法」です。
つまり、“緩和”の視点から考えた支援です。
小さな変化に価値を見いだす
「たったそれだけ?」「根本的な解決じゃないじゃん」と思うかもしれません。
ですが、1だった問題が0.9になっただけでも、それは立派な変化です。
もっと言えば、その0.1の変化が、その人の生活を支えていることもあるのです。
たとえば、
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週7日介護していたのが、週1日でも休めるようになった
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「もうダメかも」と思っていた家族が、少し前向きになった
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利用者が少しだけ笑顔を見せてくれるようになった
こうした“わずかな変化”が起こったとき、「でも根本的な問題は残ってるし…」と片づけてしまうのはもったいない。
小さくても、前進しているという事実に目を向けることが大切です。
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おわりに
支援者として、「問題は解決すべき」という意識が強すぎると、
思うようにいかない現実とのギャップに悩んでしまうことがあります。
ですが、解決できないことがあっても、それはあなたの支援が意味がなかったということではありません。
“少しでも良くなっていく”という変化を支えるのも、支援の大きな役割です。
「0か1か」ではなく、「0.9も、十分に価値がある」という見方。
この“緩和”の視点をもつことで、支援の柔軟さや可能性はぐっと広がるのではないでしょうか。