2025年6月、政府が「介護職員の賃上げについて年内にも結論を出す」と発表し、介護業界では再び賃上げ議論が注目を集めています。しかし、今回発表されたのは「賃上げを検討する」という方向性だけ。具体的な引き上げ率や時期、そして現場にどの程度の影響があるのかは、まだ見えていません。
【参考】
介護職員の賃上げは今年中に実現? 参院選控え与党検討 現場は冷めた目(joint-kaigo.com)
わたしを含め、現場で働く介護職員の多くは「また期待だけさせて、実際は大したことがないのでは?」と冷めた目で見ているのが正直なところではないでしょうか?
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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介護業界賃上げ議論の概要
政府は6日、医療・介護・障害福祉の報酬や職員の賃金を引き上げる方針を明確にした。【Joint編集部】
新しい資本主義実現会議を官邸で開催し、「実行計画2025年版」を取りまとめた。
政府はこの中で、医療・介護・障害福祉の分野について「担い手の確保が喫緊の課題」と指摘。公定価格の引き上げを図る考えを打ち出した。石破茂首相も席上、「医療・介護・福祉などの公定価格の引き上げに取り組む」と明言した。
続く経済財政諮問会議では、今年度の「骨太の方針」の原案を提示。「賃上げこそが成長戦略の要」との金看板を掲げ、「減税ではなく賃上げで手取りを増やす」とのスタンスも明示した。
政府は具体策の1つとして、「医療・介護・障害福祉など公定価格の分野の賃上げ」を明記。事業所の経営の安定、離職防止、人材確保も並行して進むよう、「コストカット型からの転換を明確に図る必要がある」との認識を示した。
「骨太の方針」の原案ではあわせて、次の報酬改定をはじめとする具体策にも言及した。「現場で働く幅広い職種の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」と説明。春闘の高い賃上げ水準、昨今の物価高による影響も踏まえ、今年末までに結論を出すべく検討を進めるとした。
(jointより引用)
上記の通り、政府は介護業界の公定価格の引き上げに取り組むとし、次期報酬改定や賃上げについて言及しています。
介護人材政策研究会の分析「5%のプラス改定が必要」だったが…
今回の議論に関連して、介護人材政策研究会が行った分析にも触れておきたいと思います。
同研究会によると、「令和6年度の介護報酬改定で、施設の安定的な運営を図るためには、5%ほどのプラス改定が求められる」との見解が示されていました。
【参考】
少なくとも4%、安定的運営には5%程度のプラス改定が必要(一般社団法人介護人材政策研究会)
しかし、実際に決まったのはわずか1.59%のプラス改定。この数字を見て、「これで現場の何が変わるのだろうか」と感じた人も多いのではないでしょうか。
仮にプラス5%の改定が実現したとしても…
今回の議論に関連して、介護人材政策研究会が行った分析にも触れておきたいと思います。
同研究会によると、「令和6年度の介護報酬改定で、施設の安定的な運営を図るためには、5%ほどのプラス改定が求められる」との見解が示されていました。
【参考】
少なくとも4%、安定的運営には5%程度のプラス改定が必要(一般社団法人介護人材政策研究会)
しかし、実際に実際にはわずか1.59%のプラス改定でした。今回の賃上げ議論でも「プラス改定」が検討されているものの、その上げ幅については具体的に示されていません。たとえ0.1%でも「プラス改定」であることに変わりはありませんが、前回の改定を見れば、それだけでは現場にとって何の意味もないことは明らかです。
なぜ現場で働くわたしたちは、賃上げのニュースを聞いても素直に期待できないのでしょうか?その背景には、これまでの経験や現実が大きく影響しています。
まず、これまで何度も「賃上げ」や「処遇改善」が話題になってきましたが、実際にはほとんど変化を実感できていないという過去があります。ニュースで大きく取り上げられても、毎月の給与明細を見ては「結局この程度か…」とがっかりした人も少なくありません。
また、給料が少し上がったとしても、同時に物価や社会保険料も上昇しているため、手取りが増えた実感はほとんどありません。スーパーで買い物をするたびに物価高を感じ、結局生活は楽にならない、というのが本音です。
さらに、人手不足や仕事の忙しさ、日々の負担の重さも解消されていません。多少の賃上げがあったとしても、仕事が楽になるわけではなく、むしろ負担が増えるばかりです。
こうした過去の実績や現状から、「どうせ今回も期待しても無駄だろう」というあきらめムードが強くなっています。
加えて、「今年中に結論を出す」という言い方も、本気で改革する気があるならすでに動き出しているはず、という冷めた見方につながっています。
さらには、7月の参院選を意識したアピールのようにも感じてしまいます。選挙前だけ都合よく持ち出される賃上げ議論には、どうしても真剣味を感じられないのが本音です。
「期待を持たせるだけ持たせて、結局は小幅な改定や曖昧な結果で終わるのでは?」そんな慣れや諦めが、今回も現場に漂っています。わたしには、今回の賃上げ議論もどこか他人事のように映り、将来や働き方に対する根本的な不安や閉塞感が、依然として解消されないのが現状です。
ミドル世代のキャリアの悩み
わたしは現在40代ですが、同じミドル世代の多くが将来のキャリアに大きな不安を感じていルのではないでしょうか。
他業種への転職でキャリアアップを目指すのも現実的には難しく、結局はこの介護業界で働き続けるしかありません。しかし、この業界で抜本的な待遇改善が期待できる状況でもなく、まさに「逃げるも地獄、留まるも地獄」という閉塞感が年々強くなっているのが実情です。
それでも“自助努力”が不可欠な理由
この業界で働き続ける以上、少しでも自分の将来を守るためには自助努力が欠かせません。
たとえば、新しい資格を取得したり、スキルアップに励むことで、自分自身の可能性を広げることができます。また、業界内外のネットワークを広げておくことも、自分の選択肢を増やす手段のひとつです。
最近では、副業やパラレルワークなど、介護の仕事だけにとらわれない働き方に挑戦する人も増えています。業界全体の抜本的な改革を待つだけでなく、自分自身が主体的に動いていくことこそが、これからを生き抜くための大切な備えだと感じています。
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まとめ
「今年中に賃上げ実現へ」というニュースは、表面上は明るい話題です。
ですが、現場で働くわたしたちからすると、正直なところ大きな期待は持てません。これまで繰り返されてきた「処遇改善」や「プラス改定」の実感のなさ、物価上昇や人手不足の現実、そして選挙前のアピールのように映る政治的な動き。どれもが、「どうせまた…」という諦めや閉塞感につながっています。
それでも、与えられた環境で自分自身のキャリアや生き方を模索し続けることが、介護業界で働くわたしたちにできる最大の備えになるのではないでしょうか。この状況にただ流されていては、自分の将来を守ることはできません。今できる「自助努力」を積み重ね、自分の価値を高めたり、新しい働き方にチャレンジしたりすることが、これからの時代を生き抜くための備えになると思います。