介護現場で働いていると、「利用者さんのために良かれと思ってやったことが、実は本人の望むものとは違っていた…」という経験、ありませんか?
この記事では、わたしがデイサービスの生活相談員として働く中で、痛感した「傾聴」の大切さと、支援者側の先入観がいかに落とし穴になるかについて、実体験をもとにお伝えします。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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支援は「話を聴くこと」から始まる
利用者さんがデイサービスを利用される理由は本当に人それぞれです。
「リハビリを頑張りたい」「外出のきっかけがほしい」「家族に少しでも休んでほしい」など、表向きの理由だけでなく、その背景にはたくさんの思いや事情が隠れています。
そんな利用者さんの「本音」を知るためには、やはり「傾聴」が大切です。
しかし、支援者がつい抱きがちな「こういう人はこうだろう」という思い込みや先入観が、利用者さんの本当の気持ちを受け止める妨げになってしまうことも少なくありません。
先入観が生んだ「すれ違い」
わたしのデイサービスに、Kさんという利用者さんがいらっしゃいました。
初めてのご利用の日、スタッフが「お風呂はいかがですか?」と声をかけると、Kさんは「入りたくない」と頑なに拒否されました。
どんなに優しく声をかけても、首を縦に振ってもらえず、スタッフも戸惑うばかり。
結局その日は入浴していただくことができませんでした。
なぜKさんはお風呂を拒否されたのか。
その理由を知ろうと、後日改めてKさんご本人にお話を伺ってみました。
聴くことで分かった「本当の理由」
Kさんはこうおっしゃいました。
「お風呂は家で毎日入っているから、デイサービスでは入りたくない」
さらに続けて、
「家にいると誰とも話さないから、デイサービスで皆さんと話をしたかった」とも。
わたしたちスタッフは、「デイサービスの利用者=自宅で入浴できないからサービスを利用する」という先入観を持っていました。
そのため、Kさんも当然「お風呂が目的」だと思い込んでしまっていたのです。
しかし、Kさんが本当に求めていたのは「入浴」ではなく、「人との会話」だったのです。
先入観が支援の質を下げる
この経験を通じてわたしは、
「利用者さんひとりひとりが、どんな思いや目的を持ってデイサービスを利用されているのか」を、先入観なく聴き取ることの大切さを痛感しました。
もし事前にKさんの希望をしっかり聴いていたら、「お風呂は無理に勧めず、代わりにお話しできる時間を増やす」という支援ができたはずです。
しかし、「こういう利用者さんはこういうニーズがあるはずだ」と決めつけてしまったことで、Kさんの本当の希望を叶えることができませんでした。
支援者が持つ先入観は、善意から生まれることが多いものです。
ですが、利用者さんひとりひとりの思いをきちんと聴き、丁寧に受け止めることを怠ってしまうと、良かれと思った支援がすれ違いや不満につながってしまいます。
傾聴の本質とは
傾聴とは、「相手の言葉に耳を傾ける」だけではありません。
相手の表情や仕草、言葉の裏にある本音、ちょっとしたつぶやきや沈黙も、丁寧に受け止めることが大切です。
また、「こうだろう」「こうに違いない」という決めつけをせず、ゼロベースで相手の話に向き合う姿勢が、良い支援の出発点だとわたしは感じています。
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まとめ
デイサービスでの支援において、本当に大切なのは「傾聴」すること。
そして、その傾聴を妨げる最大の敵は、支援者自身の「先入観」かもしれません。
利用者さんの本当の思いや希望を引き出し、満足度の高い支援につなげるためにも、「まずはよく聴く」「先入観にとらわれず相手の話に向き合う」この姿勢をこれからも大切にしていきたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。