要介護1、2は軽度者とし、介護給付の範囲を縮小しようとする動きが見られています。
介護保険制度を持続するために必要な取り組みかもしれませんが、現場で日々利用者と関わる中で思うのは、本当に要介護1、2の人が「軽度」なのか?という疑問です。
たとえば、
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認知症で帰宅願望が強く、夜間も歩き回ってしまう要介護2の方。
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ふらつきがあり転倒リスクが高いのに、ひとりで歩き出してしまう要介護2の方。
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常に車イスが欠かせず、ひとり暮らしを続けている要介護2の方。
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歩くとすぐに息切れしてしまい、ひとり暮らしが大変な要介護1の方。
これらの方々がみな「軽度」とされ、今後はサービス縮小の対象にされようとしている現状に、現場の生活相談員としてはどうしても違和感があります。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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要介護1、2の通所、訪問の保険給付除外案
2024年11月13日、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は、介護保険制度の持続性維持に向けた検討内容を政府に提示しました。
急速な高齢化により、給付費や保険料の負担は年々増加しています。その一方で現役世代は減少傾向にあり、「制度そのものの持続が危ぶまれる」との強い認識のもと、「更なる改革は不可避」との結論に至りました。
その中で注目されたのが、要介護1・2の高齢者に対する訪問介護・通所介護の保険給付からの除外提案です。
【参考】
軽度者の訪問・通所を介護給付の対象外に 財務省が具体化要請「人材・資源に限りがある」(joint-kaigo.com)
今、介護業界ではこの「要介護1・2のサービス縮小」議論に大きな波紋が広がっています。
というのも、現場で日々利用者と関わるわたしたちから見ると、「要介護1・2=軽度者」というくくり自体に違和感を抱くからです。
なぜ「軽度者」なのか? 現場と制度のギャップ
たとえば、認知症で夜間に徘徊する方や、転倒リスクが非常に高い方、車イスが生活の必需品となっている独居高齢者、息切れがあり日常生活もやっとの方など、「軽度」とは言い難い状態の方も多くいます。
こうした方々の生活を支えているのが、現在の訪問介護や通所介護です。
掃除や洗濯、調理といった生活援助サービスは、ただの家事代行ではなく、安否確認や生活状況の早期発見、孤立予防、家族負担の軽減など、とても大きな役割を担っています。
もし今後、要介護1・2の方の訪問・通所介護が介護保険の対象外となれば、
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独居高齢者の孤立や事故リスクの増大
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家族介護者の負担増と、共倒れの懸念
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困窮や支援困難な人の制度からの取りこぼし
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軽度者から重度者への早期移行による、さらなる社会負担の増加
など、多くの問題が生じることは容易に想像できます。
現場の最前線で働くわたしたちは、利用者の小さな変化やSOSにいち早く気付き、必要な支援につなぐ役割も担っています。サービスの縮小は、こうした「早期気付き」や「予防」の機会も奪うことになりかねません。
制度の持続性や効率化はもちろん重要ですが、「軽度者」と一括りにした議論では、本当に守るべき人の暮らしや安心が見えなくなってしまいます。そんな危機感を、現場の多くの職員が抱いているのです。
地域支援事業への移行と“現場のリアル”
財務省が提案しているのは、要介護1・2の訪問介護や通所介護を、国の介護保険給付から市町村が担う「介護予防・日常生活支援総合事業」に段階的に移していくことです。
特に、掃除や洗濯、調理といった生活援助サービスを中心に、まずは対象外とする方向が議論されています。
この「介護予防・日常生活支援総合事業」への移行は、国としては財政負担を抑えつつ、地域の実情に合った柔軟な運営を目指すという狙いがあります。
また、地域住民やボランティア、NPO、民間事業者など多様な主体の参画によって、「支え合いの仕組み」をつくろうという発想です。
一方で、現場としては次のような課題が浮かび上がっています。
サービス縮小で懸念されること
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サービス格差・地域差の拡大
自治体によって財源や人材、取り組み姿勢は大きく異なります。都市部と地方、財政力のある自治体とそうでない自治体では、サービスの質や量に差が生まれる可能性が高まります。 -
担い手不足・質の確保
介護の現場はすでに人手不足です。新たな地域主体やボランティアを確保するのは簡単ではありません。
また、プロの介護職と同じ水準の見守りやリスク察知ができるのか、という不安も根強いです。 -
利用者・家族の不安の増大
「本当に今まで通り支援が受けられるのか」「新しい仕組みについていけるのか」「お金はどのくらいかかるのか」
など、利用者・家族の生活不安が大きくなることが予想されます。 -
重度化リスクの加速
見守りやちょっとした手助けがなくなることで、転倒や体調悪化、認知症の進行、家族の介護離職などが増え、かえって重度化してしまうケースも少なくありません。
保険外サービスの拡大は本当に救いになるのか?
財務省は「介護事業者にとっては、保険外サービスの提供がビジネスチャンスになる」としています。しかし、
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サービスが有料化すれば、経済的に余裕のない人は利用しにくくなる
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保険外サービスは内容や質がまちまちで、「生活の安心」が不安定になる
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家族や本人の“自助努力”がますます求められる
など、現場としては簡単に「解決策」とは言い切れない現実もあります。
「軽度者」と括ってしまうことの危うさ
制度の中では、要介護1・2の方々が「軽度者」として扱われています。しかし、現場で支援にあたるわたしたちから見ると、この「ひとくくり」が多くの危うさをはらんでいると感じます。
1.実態とラベルが合わない
要介護1・2には、認知症による徘徊や転倒リスクの高い方、独居や家族支援が乏しい方、身体状況が不安定な方など、日々の生活に大きな困難を抱えている方が多く含まれます。
「軽度」という言葉のイメージとは裏腹に、実際には重い課題を抱えた人たちも少なくありません。
2.支援が届かなくなる危険性
「軽度だから」とサービスを減らした結果、必要な支援が行き届かなくなり、孤立や事故、重度化を招いてしまう危険性があります。
一見「まだ大丈夫そう」な方ほど、見守りやちょっとした支援の有無が、その後の生活を大きく左右します。
3.家族や地域への負担増
サービス縮小は、家族や地域の負担を一気に高めます。現場では、介護離職や共倒れ、支える人自身が疲弊するケースも多く見てきました。
4.本人の尊厳や生活の質が損なわれる
「軽度者」というラベルで一律にサービスを切り捨てれば、その人らしい生活や安心できる暮らしが脅かされることにつながります。
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おわりに
「これで“軽度者”?」という現場からの疑問を、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。
制度改革が暮らしの安心を損なわない形で進むことを、現場のひとりとして切に願っています。ご意見・ご感想などありましたら、ぜひコメント欄やSNSでお寄せください。
これからも、現場からの声を発信していきます。