「有給を取りやすい雰囲気づくりをしましょう」
先日、公的機関主催の研修で、そんなテーマが取り上げられていました。たしかに、休みやすい空気をつくること自体は大事です。でも、介護現場で働く身からすると、正直それだけで何かが変わるとは思えません。
この業界では、有給なんて“あってないようなもの”。
現場を知らない人が「有給を取りやすく」と言葉で訴えても、現実的な壁はあまりにも高いと感じています。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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デイサービスの現実──1事業所あたりの職員数は平均9.1人
厚生労働省のデータ(令和4年=2022年10月1日時点)によると、
全国の通所介護(デイサービス)事業所は24,569か所。
その時点での通所介護の介護職員数は223,462人です。
つまり、1事業所あたりの介護職員数は平均で約9.1人。
実際のデイサービス事業所では、介護職員だけでなく、看護職員や生活相談員、機能訓練指導員、管理者など複数の職種が働いています。ですが、現場の中心を担っているのはやはり介護職員。
さらに経営実態調査を見ると、利用者10人あたりの介護職員は約2.95人という数字も示されています。
この9.1人という数字を現場の感覚で見れば、
「こんな少人数で、毎日利用者の生活支援や送迎、ケアを回しているのが当たり前」
という状況です。
有給・産休・育休…本当に取れる体制か?
この平均9.1人の職員で、有給や産休・育休をみんながしっかり取って回せる体制が現実的か?
正直、ほぼ不可能に近いと感じます。
誰かが1日休むだけで、残ったスタッフの負担は一気に増える。
「取りにくい雰囲気だから休めない」のではなく、**「休んだら物理的に現場が止まる」**のが最大の理由です。
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利用者へのサービスを途切れさせないため
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送迎やレクリエーションなど、日々の運営を維持するため
少数精鋭でやりくりしているデイサービス現場で、
有給を気兼ねなく取得できる職場を実現するのは、実際には非常に難しいと言わざるを得ません。
「人手不足」こそが最大の課題
では、どうしたらみんなが有給・産休・育休を安心して取れる現場になるのか?
結局のところ、報酬を上げて、給料を上げて、人員を確保していくしかないのだと思います。
いくら人員配置やシフト調整を工夫しても、
この平均9.1人という人数の枠組みの中では限界があります。
「有給を取りやすい雰囲気づくり」だけが声高に叫ばれても、
現場はカツカツで回しているからこそ、誰かが休むたびにみんなでカバーし合うしかない。
現実には“休みやすい雰囲気”だけではどうにもならない壁があります。
「理想」と「現実」のギャップ
公務員や大企業でも有給取得率を上げるのに苦労しているのに、
1事業所あたり平均9.1人のデイサービス現場にまで同じルールを当てはめようとするのは、やはり無理があるのではないでしょうか。
厚労省などが“制度上のルール”を整備するのは重要ですが、
現実の現場では、まず「十分な人員配置」と「人件費確保」を徹底してほしい――
それが現場の正直な願いです。
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まとめ
「有給を取りやすい雰囲気づくり」だけでは介護業界の本質的な問題は解決できません。
現場に必要なのは「雰囲気」ではなく「仕組み」と「十分な人数」。
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人員にゆとりを持たせた配置
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急な休みにも対応できるバックアップ体制
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職員が自己犠牲でカバーしなくても済む給与水準・待遇
こうした根本的な改革なくして、本当に「有給が取れる介護現場」は実現しません。
現場のリアルな数字とともに、“有給なんてあってないようなもの”になりがちなこの現状を、多くの方に知ってもらえればと思います。
ルールを押し付けるだけでなく、現場の実態に即した改革を。
これこそが、介護業界が持続可能な職場になるための第一歩です。