「介護の仕事に営業なんてない」と思われがちですが、実際には介護施設も数字がつきもの。特にデイサービスやショートステイなどの現場では「稼働率」という数字が大きなプレッシャーとして、常に生活相談員にのしかかっています。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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生活相談員と稼働率の切っても切れない関係
介護施設の運営は、利用者数=稼働率で決まると言っても過言ではありません。
たとえばデイサービスなら、毎日定員どおりに利用者さんが来てくれることが理想です。ですが実際は、キャンセルや体調不良、入院などで空きが出る日も多いものです。
この「空き」が続いて稼働率が下がると、どうなるか。
管理職や本部など「上からの圧力」が一気に強まります。「もっと新規を増やせないのか?」「何で少ないんだ?」と、現場の責任が重くのしかかってくるのです。
稼働率が下がったときの風当たり
介護施設で働いていると、稼働率が下がったときの“空気の変化”を肌で感じることがあります。
たとえば、普段は上司や管理者から特に何も言われずに過ごせていても、利用者が減って稼働率が落ち込むと、途端に「なぜ利用者が減ったの?」「何か対策しているの?」と、毎日のように声をかけられるようになります。
会議やミーティングでも、
「最近、どうして稼働率が落ちているのか?」
「新規の利用者獲得のために、どんな取り組みをしている?」
といった質問や指摘が増え、相談員へのプレッシャーが強くなります。
ときには、
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他の施設は満床なのに、なぜうちだけ空きが多いのか
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宣伝が足りないんじゃないか
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利用者や家族への対応が悪いのでは
といった“詰める”ような言葉が飛んでくることもあります。
本当は、
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利用者の体調不良や入院など、どうしても避けられない理由で空きが出ている場合も多い
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現場は一生懸命対応している
にもかかわらず、表面的な数字だけを見て厳しい指摘を受けることが増えます。
わたし自身、稼働率が急落した時期に何度も上から詰められた経験があります。
「他の事業所は満床だぞ、早く満床にしろ」「早く結果を出せ」「相談員向いてないんじゃないか?」といった言葉は、今でも忘れられません。
稼働率が高くて順調なときは、ほとんど何も言われません。「これが普通」「できて当たり前」と見なされるため、頑張っていても褒められることが少ないのです。
相談員が担う数字の仕事
生活相談員の仕事というと、「利用者や家族の相談に乗る」「困りごとを聞く」といったイメージが強いかもしれません。ですが実は、数字を意識して動く仕事もたくさんあります。
たとえば、こんな場面が「数字の仕事」です。
1. 新しい利用者を増やすこと
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地域のケアマネジャーに「空きがありますよ」と案内をする
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体験や見学の問い合わせがあったら、すぐに対応して説明をする
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新規の面談や契約をていねいに行い、利用開始につなげる
2. 空き枠を埋める工夫をすること
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キャンセルが出たとき、ほかの利用者やケアマネに「今なら利用できます」と連絡する
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短期の利用だった人に「また来ませんか?」と声をかけてみる
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一度きりの利用で終わらせず、定期的に来てもらえるよう提案する
3. 継続して利用してもらう工夫
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利用者や家族に、「困ったことはありませんか?」と定期的にフォローする
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利用回数を増やす提案をする
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行事やレクリエーション情報を伝えて、施設の魅力を伝える
4. 数字を“見える化”すること
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その日の利用者数や稼働率をスタッフ全員で共有する
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毎月の稼働率やキャンセル数などの報告書を作る
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目標や実績をみんなで振り返る
このように、生活相談員はただ相談に乗るだけでなく、「利用者数を増やす・空き枠を埋める・利用を続けてもらう」といった数字を意識して働くことも、大切な役割のひとつです。
利用者や家族、現場スタッフやケアマネなどのことも考えながら、数字も伸ばす。これが今の相談員に求められている「数字の仕事」です。
稼働率とどう向き合うか
とはいえ、「数字なんて自分には関係ない」と目を背けていては、どんどん現場が苦しくなります。
だからこそ、小さな行動で数字を味方につける工夫が大切だと感じています。
1.今の稼働率を見えるようにする
2.ケアマネへ情報共有する
3. スタッフみんなで情報共有する
4. 利用者さん・家族に提案する
日々の小さな工夫や声かけが積み重なって、気づけば稼働率も上がり、現場の雰囲気も良くなって行くと思います。「数字に振り回される」のではなく、「数字を味方につける」。
そんな前向きな気持ちで、稼働率と向き合っていきたいですね。
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まとめ
介護現場で生活相談員は、どうしても稼働率という数字から逃げることができません。
しかも、稼働率が下がれば「なぜだ?」と責められ、上がってもなかなか褒められないという現実。
それでも、「数字」は利用者の安心、スタッフの雇用、現場の安定を守るために必要なものさしです。
しんどいと感じるときもありますが、「数字に振り回される」ではなく「数字を活かす」姿勢で、よりよい現場づくりに向き合っていきたい。そんな風に、今は思っています。