高齢化が進む中で、身寄りがなくひとり暮らしをしている方のデイサービス利用希望が年々増えています。家族や親戚がいない利用者の場合、サービス提供側の負担やリスクが大きくなることも少なくありません。
地域で支え合う「地域包括ケアシステム」の理念のもと、できる限り受け入れたいとは思うものの、実際には“何となく”で済まされない課題がたくさんあります。
わたしの勤務するデイサービスでも、ケアマネジャーから「身寄りがない方の新規利用依頼」が入ることは珍しくありません。しかし、受け入れにあたっては、いつも以上に慎重な事前調整が必要となります。ここでは、身寄りがないひとり暮らしの方をデイサービスで受け入れる際に、必ず確認しておきたい3つのポイントについて解説します。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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急変時の対応「もしものとき誰が動くのか?」
まず第一に確認すべきは、「急変時の対応」です。身寄りがある方なら、体調不良や事故などが起きた際、すぐに家族へ連絡ができます。しかし身寄りがない方の場合、いざというときに連絡先がなく困ってしまいます。
たとえば、サービス中に利用者が倒れて意識を失ったとします。すぐに救急車を呼ぶのは当然ですが、その後、病院から「ご家族はいらっしゃいますか?」「治療方針の同意はどなたがされますか?」と聞かれたとき、答えられずに困ってしまうことも。実際に現場では、家族や身元保証人がいないことで治療が遅れたり、入院時の手続きが進まなかったりするケースがあります。
そのため、緊急時の対応については、事前に本人とケアマネジャーを含めて申し合わせをしておく必要があります。もしものとき誰が動くのかしっかりと確認しておくことで、急変時でも慌てずに済みます。
万が一のときの利用料支払い「未払いリスクをどう防ぐ?」
次に重要なのが、「万が一のときの利用料支払い」です。家族がいれば、利用者本人がご逝去されたり入院されたりしてデイサービスを利用できなくなった場合でも、代わりに支払いを行えます。しかし、身寄りなしのひとり暮らしの場合、支払いができずに未払い金が発生するリスクが高まります。
実際、現場では「サービス利用中に急逝し、口座も凍結されてしまった」という事例も少なくありません。特に後見人がついていない場合や、日常の金銭管理が自分で難しい利用者の場合は要注意です。ですから、契約時には「支払いに責任を持つ人」を明確にしておきましょう。
本人の意思確認・代弁体制「契約内容をどう理解してもらうか?」
3つめのポイントは、「本人の意思確認と代弁体制」です。
デイサービスを利用するうえでは、重要事項説明や契約内容について、利用者本人がきちんと理解し、納得してもらう必要があります。しかし、認知症の進行や判断力の低下により、本人の意思がはっきりしない場合も珍しくありません。
身寄りがない方は、そもそも契約時に「誰が同席するか」「意思確認が不十分な場合に誰が代弁するか」といった点が曖昧になりがちです。成年後見人や信頼できる第三者がついていれば安心ですが、そうでない場合は、地域包括支援センターや担当ケアマネジャーと連携し、なるべく多角的に本人の意向を把握できる体制づくりが必要です。
契約や重要事項説明の際には、
- 難しい言葉を避け、できるだけ分かりやすく説明する
- 本人が納得していないと感じた場合は、再度確認の場を設ける
- 継続的に意思の確認や記録を残す
といった工夫も必要になります。
受け入れ側の本音と現実
デイサービス事業所としては、誰でも気軽に受け入れたい気持ちはあります。しかし、身寄りなし・ひとり暮らしの方の場合は、やはり通常以上のリスクと責任を背負うことになります。「困っている人を断りたくない」と思いつつも、二つ返事で「大丈夫です!」と言い切れないのが現実です。
受け入れ後にトラブルが発生し、事業所だけで抱え込むことになれば、職員にも大きな負担がかかります。だからこそ、最初の段階でしっかりとリスクを洗い出し、関係者全員で連携して支援体制を整えておくことが大切です。
行政や地域との連携のポイント
最後に、身寄りなしの方の支援には、地域包括支援センターや行政との連携が欠かせません。
困ったときに事業所だけで抱え込まず、早めに行政や地域のネットワークを活用することで、現場の負担を軽減し、利用者本人にもより安心なサービスを届けることができます。
たとえば、
- 地域包括支援センターに定期的に状況を報告し、情報共有を密にする
- 必要に応じて成年後見制度や日常生活自立支援事業などの利用を提案する
- 福祉事務所や医療機関とも、緊急連絡網をあらかじめ整備しておく
こうした工夫が、結果的に利用者の安心・安全にもつながります。
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まとめ
身寄りなし・ひとり暮らしの方をデイサービスで受け入れる際には、「急変時の対応」「万が一のときの利用料支払い」「本人の意思確認・代弁体制」の3つをしっかり確認することが、トラブル防止の第一歩です。
受け入れを迷う場面もあるかもしれませんが、リスクを理解し、関係者で連携しながら適切な体制を整えることで、誰もが安心してサービスを受けられる地域づくりに一歩近づけます。現場の不安や負担を減らすためにも、ぜひ意識してみてください。