福祉や介護の現場で仕事をしていると、「このケースはどう支援するのが正しいのだろう?」と迷うことが本当に多いです。マニュアルや制度の枠組みが用意されていても、目の前の利用者一人ひとりの状況や気持ちは千差万別。「絶対に正しい答え」は存在しないのが現実です。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
・Xにほぼ毎日投稿しています。
・職業情報サイトへ生活相談員に関する記事提供実績あります。その他介護情報サイトへ記事提供実績もあり。
・kindle出版で『 対人援助一年目の教科書: 現役のプロが書いた実践で役立つスキルと心構え』発売しています。
詳しい自己紹介はこちら。
「対人援助一年目の教科書」 Kindleにて好評発売中です!
対人援助一年目の教科書: 現役のプロが書いた実践で役立つスキルと心構え
「枠にあてはめない」支援の本当の意味
生活相談員として働いていると、利用者の年齢や家族構成、病歴や生活背景などから、つい“こうすべき”という型を押しつけてしまいがちです。でも、その人が本当に求めていることは、マニュアル通りの支援ではありません。
たとえば、家族との同居が望ましいとされるケースでも、利用者本人は「家族に迷惑をかけたくない」「ひとり暮らしが自分らしい」と考えていることもあります。逆に、制度や現場の常識から外れるような要望が出てくることもありますが、そこに折り合いをつける姿勢が本当の支援だと思います。
「あなたはどうしたいですか?」という問いを大切にし、その人自身の思いを引き出すことが、型にはまらない支援の第一歩です。
「正解主義」から自由になろう
現場で支援をしていると、「どちらが正しいか」「これがルールだから」と、白黒つけたくなることがあります。しかし、福祉や介護の現場では、すべてのケースに当てはまる“正解”などありません。Aさんにとっての最善が、Bさんにも最善とは限らないのです。
たとえば、認知症の方が「家に帰りたい」と繰り返し訴える場面。家族や職員からは「今はもう帰れない」「ここがあなたの家ですよ」と説明するのは、ひとつの正しい答えかもしれません。ですが、正解はそれだけではないはずです。
支援者自身が「こうあるべき」という正解主義にとらわれてしまうと、相手の変化や心の揺れに気づきにくくなります。大切なのは、「今、この人はどう感じているか」に常に耳を傾ける柔軟さです。
「グレーな妥協点」を探す力
現実の支援現場では、制度やご家族の意向、現場のリソースなど様々な制約があります。そのなかで、すべての希望を100%叶えることは難しいものです。こうした中で必要なのが、白でも黒でもない“グレーゾーン”で折り合いをつける力です。
たとえば、家族が「もっと頻繁に面会したい」と希望する一方で、利用者本人は「毎日はしんどいから、週に1回くらいでいい」と思っている場合。どちらの意見も大切にしつつ、双方が納得できる落としどころを一緒に探していきます。
支援者は「正解」や「ルール」だけで判断せず、「どこに着地するのが一番この人らしいのか」「今の状況でできる最大限は何か」を一緒に考えるパートナーでありたいと思います。
利用者の「大丈夫」をそのまま信じない
支援の現場では、利用者の「大丈夫です」「困っていません」をそのまま受け取るだけでは足りません。本当は不安を抱えているのに、気を遣って言い出せない方や、自分の気持ちをうまく表現できない方もいます。
わたし自身、これまで何度も「もっと早く気づいてあげられたら…」と感じたことがあります。「大丈夫」という言葉の奥にある本当の気持ちやSOSに目を向けることが、信頼関係を築く第一歩です。
気持ちは日々変わる―常に“今”の思いに寄り添う
人の気持ちや考え方は、昨日と今日で変わることも珍しくありません。「昨日はこう言っていたのに、今日は違うことを言っている…」そんなときこそ、“この人は変わりやすいからダメ”と決めつけるのではなく、「今はそういう気持ちなんだな」と受け止めることが大切です。
気持ちの変化を自然なものとして受け入れ、その都度対応を柔軟に変えていく。これも、“正解主義”に陥らないために大事な視点です。
「正解」がないからこそ、支援者の個性が活きる
支援に絶対的な答えがないからこそ、支援者一人ひとりの考え方や経験、感性が活きます。悩んだり、迷ったりすることは決してマイナスではありません。むしろ、その悩みや迷いの中から、その人にとっての“ちょうどいい”関わり方が生まれてくるのだと思います。
たとえば、現場でよくあるジレンマの一つに、「本人の希望」と「ご家族の安心」の間で揺れるケースがあります。どちらか一方を優先してしまうのではなく、両者の気持ちに耳を傾け、「今できるベストは何か?」をみんなで考える。それが、現場のリアルです。
支援者自身も“グレー”でOK
そして、わたしたち支援者自身も「自分の対応はこれでよかったのか?」と迷うことがあって当然です。答えがひとつに決まらないからこそ、悩みながら進む。その姿勢を持ち続けることが、よりよい支援につながるはずです。
「利用者支援に正解はない」という言葉は、一見不安に感じるかもしれません。しかし、そこにこそ“支援の本質”があるのだとわたしは思います。
◆ 生活相談員の基礎知識はこちら
◆ おすすめ書籍はこちら
◆ さらに深く学ぶなら
・本気で学ぶケアスタッフのための総合オンラインセミナー.『ケアラル』
◆ 介護の資格・転職なら
まとめ
利用者支援において大切なのは、「これが正しい」と決めつけるのではなく、一人ひとりの思いと今の状況に寄り添うことです。白黒つけられないグレーな部分を恐れず、その中でできる最大限を一緒に探っていくこと。それこそが、現場で本当に求められる力ではないでしょうか。
正解がないからこそ、支援者の個性や柔軟性が光ります。“唯一の正解”を求めすぎず、利用者の“今”と向き合い続ける姿勢を大切にしていきたいですね。