ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護が必要な高齢者とその家族を支える重要な存在です。しかし現場では、家族の意向を優先するあまり、利用者本人の気持ちや希望が置き去りにされてしまう場面もあります。今回は、ある利用者Aさんのケースを通して、「ケアマネは誰のためにいるのか?」という問いを改めて考え、利用者本位の支援とは何かを見つめ直します。
takuma
生活相談員(社会福祉士・公認心理師・介護支援専門員)
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Aさんのひと言「わたしのためにいるんじゃないの?」
Aさんは90代の女性。要介護認定を受け、月に数回ショートステイを利用しています。ご家族はフルタイムで働いており、在宅介護が難しいため、サービス調整の多くは家族の要望をもとに進められてきました。
そんなある日の担当者会議で、Aさんはこんなひと言をつぶやきました。
「ケアマネさんって、わたしのためにいるんじゃないの?」
その瞬間、担当のケアマネジャーを含め、わたしたち支援者はハッとしました。
普段、Aさんの支援をする中でサービス内容の調整をするにあたり、ご家族の都合や希望が中心になってしまいがちだったのです。Aさんとじっくりと話を聞く時間をとっていなかったことに、今さらながら気づかされた出来事でした。
家族優先の支援体制の背景
家族の意向が強く反映される背景には、いくつかの要因があります。
- 実際に在宅で介護をしている家族の声が大きくなりやすい
- 認知機能の低下などにより、本人の意思確認が難しいケースがある
- 家族からのクレームを避けたいという、支援者側の防衛的姿勢
- 限られた時間の中で、本人とじっくり話す時間がとりづらい
こうした状況の中で、「家族の意向=利用者の幸せ」と短絡的に結びつけてしまうことも少なくありません。
しかし、家族と本人の考えが必ずしも一致するとは限らないのです。
利用者本位の支援を実現するために
Aさんの言葉を受けて、ケアマネはサービス内容の見直しに着手しました。家族と話し合いながらも、Aさん本人の声を中心に据えることを意識しました。わたしはショートステイの生活相談員として、ケアマネと以下のような対策を実施しました。
- 「制限食がつらい」と話していたAさんに対し、食事制限を見直す
- 「甘いものが好き」との声から、ショートステイ時におやつの持ち込みを許可
- 朝食や夕食、入浴の時間を、可能な範囲で本人の希望を取り入れる
こうした小さな積み重ねにより、Aさんの表情は明るくなり、スタッフとの会話も増えていきました。当初はショートステイに行くのを嫌がっていたAさんですが、少しずつ嫌がらずにきてくれるようになりました。本人の希望が形になることが、安心感や生活意欲の向上につながっていったのだと思います。
担当者会議のあり方を見直す
本来、担当者会議は「利用者本位の支援計画をつくる場」であるはずです。ところが現実には、ケアマネとサービス事業所だけで形だけの打ち合わせが行われ、利用者本人は蚊帳の外に置かれてしまうこともあります。
Aさんのケースでは、担当者会議にもAさん自身が同席し、本人の声をその場で共有しました。実際に本人から「こうしてほしい」と伝えてもらうことで、支援内容への理解と納得が深まり、サービス提供側の意識も変化しました。
利用者本人の言葉を聞くこと。それが、形式的な会議を“生きた会議”に変えるカギとなります。
ケアマネは誰のためにいるのか?
ケアマネは、利用者の生活をより良くするための支援者であるべき存在です。
もちろん、家族との連携は必要です。しかし、それが「本人の声を無視してでも家族の意向に従う」という姿勢になってしまえば、本末転倒です。
支援の主役はあくまで「本人」。
本人の力を信じ、意思を尊重し、ともに暮らしをつくっていくことがケアマネに求められているのではないでしょうか。
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まとめ
「ケアマネは誰のためにいるのか?」
この問いの答えは明確です。利用者本人のためです。
支援の中で家族との調整は避けられませんが、それはあくまで“本人のよりよい暮らし”を実現するための一手段です。Aさんのひと言は、その原点を思い出させてくれました。
とはいえ、ケアマネの皆さんは、理想と現実の板挟みのなかで、日々業務を行わなければならないと思います。現場で悩みながら支援を続けるケアマネの皆さんの気付きに、この記事が少しでもなれたら幸いです。

