介護・福祉情報室

認知症予防という幻想

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突然ですがあなたに質問です。

「認知症は予防できると思いますか?」

 

こんにちは。takuma@takuma3104 です。デイサービスとショートステイの生活相談員をしています。

ここでは、誰しもが気になるこの問い「認知症は予防することができるのか?」について、解説していきたいと思います。

認知症“予防”の意味とは?

そもそも、認知症の“予防”とは何を意味するのでしょう?

予防とは本来、「それにならないようにすること」という意味です。

たとえば、「高血圧の予防」といえば「高血圧にならないようにすること」ですよね。ですから、「認知症の予防」といえは「認知症にならないようにすること」を意味するはずです。

ところが、「認知症の予防」とは、どうもそういう意味ではないらしいのです。

2019年に国から出た「認知症施策推進大綱」によると、

認知症の予防とは「認知症にならない」という意味でなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味である。

と書かれています。

ここでいう認知症の予防とは、高血圧などの予防のように「それにならないようにすること」ではないんです。あくまでも、「認知症になるのを遅らせる」ことと「認知症になっても進行を緩やかにする」ということを「認知症予防」と言っているわけです。

そして、逆を返せばつまり、現時点で認知症にならないための予防法はないということを意味しています。

認知症予防とは、認知症になるのを予防することではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症の進行を緩やかにする」こと。

現時点で、認知症にならないための予防法はない。

薬以外に予防法はない

現時点で、認知症にならないための予防方法がないことはご理解いただけたと思います。

「でも、認知症になるのを遅らせたり、進行を緩やかにすることはできるんですよね?」

次はこんな疑問がわきますよね。

現時点では、アリセプトやメマリーといった薬によって認知症の進行を遅らせることができるといわれていますが、薬以外で認知症になるのを遅らせたり進行を穏やかにする方法はないのだそうです。

その理由も、「認知症施策推進大綱」には書かれています。

運動不足の改善、糖尿病や高血圧症等の生活習慣病の予防、社会参加による社会的孤立の解消や役割の保持等が、認知症予防に資する可能性が示唆されている。

ここに挙げられている「運動不足の改善」「生活習慣病の予防」「社会参加」は、なにも認知症に限らず、一般的に体にいいとされているものです。体にいいとされているものは、当然脳にもいいのでしょう。ですから、これらは特別認知症にだけ特別に効果があるというものではないわけです。

さらに、この文章には「可能性が示唆されている」と書かれています。可能性が示唆されているということは、予防できるかもしれないと言われていることです。「こうすれば予防できる」という明確な答えではありません。つまり、「いまの時点ではっきりと認知症予防になることってあるの?」と聞かれたら、「ノー」という答えになってしまうのです。

認知症になることを遅らせたり、進行を緩やかにする方法も今のところはない。

それでも認知症を予防したがる人たち

以上が、今の日本で国が示している認知症予防についての考え方です。

ここからは、わたしの経験をもとに書いていきたいと思います。

わたしはデイサービスで働いています。デイサービスには、認知症の人も通ってきています。

デイサービスを利用するためには、ケアマネジャーの作るケアプランが必要です。このケアプランをもとに、利用者それぞれに合ったサービスを提供するのがデイサービスの役割です。

そのケアプランに、こう書かれているときがあります。

「脳トレをして認知症を予防する。」

「他者との関わりを持ち、認知症の進行を抑える。」

こんな感じで、認知症の予防をデイサービスに求めてくることがあります。

「認知症の予防はできない」ということがわかっていれば、これはおかしいってことがわかりますよね。

介護の専門家であるケアマネジャーですら、認知症予防への理解ってこの程度なんです。専門家ですら認知症についての正しい知識を持っていないのですから、認知症の人の家族が「認知症は予防できる」という幻想を抱いてしまっても不思議ではありません。また、ちまたには、「認知症予防」をうたったあやしいサプリや健康法なんかも見受けられます。

結果、かわいそうなのは認知症の人自身です。

やりたくもない脳トレや他人とのコミュニケーションを、「認知症予防」という名のもとに嫌々させられることは、かえって認知症の人自身を苦しめてしまうのではないでしょうか。

もちろん、規則正しい生活をしたり、頭を使ったり、運動をしたりといったことは体にいいことですし、“認知症予防に資する可能性が示唆されている”ので、やらないにこしたことはないでしょう。しかし、そういった認知症予防に固執しすぎるあまり、本人が苦しんでしまっては本末転倒だと思うのです。

認知症を予防する方法は今のところないわけです。だったら、認知症になっても大丈夫な世の中にシフトしていけたほうが、認知症の人も認知症でない人も安心して暮らせるんだろうなって思います。