厚生労働省から、「2020年4月現在で、ADL維持等加算を算定する事業所が1000件を超えた」という発表がありました。
https://www.joint-kaigo.com/articles/2020-09-15-3.html
ADL維持等加算とは、デイサービスにおいて、自立支援・重度化防止の視点からADLの維持または改善ができたことに対する評価として、2018年度新たにつくられた加算です。2020年4月現在で、全国約4万3000件のデイサービスのうち1024件が算定しており、算定率は2.38%とのこと。
…低いですね。(笑)
とはいえ、うちも算定しない事業所のひとつです。この加算をとらない理由は、事業所によってそれぞれあると思いますが、ここではうちのデイサービスがなぜADL維持等加算をとらないか、その理由についてまとめてみました。
ADL維持等加算とは
その前に、まずはADL維持等加算の内容についての確認です。
ADL維持等加算は、利用者の総数が20名以上の事業所で、1年間の評価期間中に利用者のADLの維持・改善の度合いを、バーセルインデックス(Barthel Index)という評価法を用いて評価します。その結果、ADLが維持・改善できていると認められると算定することができます。
はじめの1年間は評価期間となりますので算定できず、その翌年から算定が可能になります。他にも、要介護3~5の利用者の割合が15%以上、初回認定から1年以内の利用者が15%以下といった諸条件がありますが、ここでは細かい説明を省きます。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
https://www.joint-kaigo.com/1/_src/55739/adlizitoukasan.pdf?v=1579230380939
では、なぜうちの事業所がADL維持等加算を算定しないかについてです。
単純に面倒くさい
のっけからこんな理由ですみません…。ですが、事実面倒くさいんです。
ADL維持等加算を算定するためには、バーセルインデックス(Barthel Index)を用います。まず、バーセルインデックスって何?って感じです。このバーセルインデックスとは、ADLを評価する方法のひとつです。食事・車イスからベッドへの移動・整容・トイレ動作・入浴・歩行・階段昇降・着替え・排便コントロール・排尿コントロールの10項目に対して、「自立」や「一部介助」など5点刻みで点数化し、その合計を100点満点で評価します。これを、全ての利用者に半月に1回行っていきます。
…これ読んでるだけで面倒くさくなりませんか?入浴加算みたいに、入るか入らないかで決まるんだったらもっと楽なんですけどね(笑)
この加算が始まる前からバーセルインデックスを用いていたデイサービスなんてまぁありませんから、どこのデイサービスでも新たに取り入れるわけです。これがもうすでに負担です。ただでさえ忙しいところに、新たな業務が追加されるわけです。これはしんどい。しかも、継続して評価し続けなければならないわけですからね。ランニングコストもかかっていきます。デイサービスの業務は限られた人員で行っていますから、新たに業務が増えることは、現場職員にとって想像以上に負担大なのです。
単価が安い
次に問題なのは、その単価です。ADL維持等加算の介護報酬は、最大で毎月ひとり6単位です。1日6単位じゃないですよ?月、6単位です。つまり、ひとり約60円。100人の利用者がいたとしても、月6000円の収入です。…これは安すぎる。手間が増えたのに、もらえる金額は微々たるものなのです。費用対効果が悪すぎます。
わずかばかりな金額ではありますが、多くの利用者のADLを維持・改善させる事業所にインセンティブが得られる仕組みとなっているわけですが、それはなぜなのか?なぜ国は国民の介護度を下げたいのか?それは、介護度が下がればその分社会保障費の支出が減るからです。介護保険制度を持続させるには、社会保障費を抑制しなければなりませんから。
国としては財源がないから、どうにかして国民の介護度を下げようと躍起になる
介護予防はもちろん大切
でも、どんな介護度になっても幸せに過ごせる社会を作る事も大切
どんなに頑張ってもADLの向上が見込めない人はいる訳で…
せめて事業者側としては、その人たちを護る役割を果たしたいなって思う— takuma@生活相談員 (@takuma3104) September 19, 2020
そのために、このADL維持等加算で、ADLを維持・向上させている事業所を評価したいわけです。しかし、いくら試験的な加算であるといえども、この程度のインセンティブでADLを維持・向上させようなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃないかなぁって思います。
利用者のためになると思えない
うちの事業所がADL維持等加算を取らない最大の理由は、これです。このADL維持等加算が評価しようとしているのは、あくまでも要介護者のADLの維持・改善だけです。もちろんADLの向上はQOLを高めるために欠かせない手段のひとつですが、ADL向上それ自体が介護の目的ではありません。
国はこの加算を皮切りに科学的介護を推進していきたいようですが、この加算で示されるのはあくまでもADLという部分に特化したエビデンスです。真に重要なのはQOL、つまり、いかによく生きるかではないでしょうか。
仮にADLが向上したとしても、利用者がデイサービスに行くことが楽しくなかったら、その利用者のQOLは低下したといえます。だからわたしは、ADLの向上という一部にスポットを当てるよりも、いかによく生きるかというQOLの向上を目的としたいです。たとえ数値化はできなくても、利用者と共に日々の喜びを築き上げていくのがデイサービスの役割だと思っています。そのためには、ADL維持等加算を算定するような余計なことをやりたくはないんです。
ADLの維持・向上よりも、QOLの維持・向上を。デイサービスの事業所として、ここはぶれずにやっていきたいものです。