2019年5月17日(金)のニュースで、『政府は認知症対策を強化するために、「予防」を重要な柱とした2025年までの大綱の素案を示した。』というものがありました。
さらに報道によると、『70代の認知症の人の割合について10年間で1割、6年間で6%減少させる』とのこと。
一緒にテレビを観ていた介護士の妻が一言
「認知症の人って減らせるの?」
国はどうやって認知症の発症を予防しようとしているのでしょうか?そもそも、認知症って予防できるものなのでしょうか?
6年間で6%減少するという数値目標について
6年間で6%って、具体的にどのような数値になるのでしょう?
政府は2018年の70~74歳における認知症有病率を3.6%から3.4%へ、75~79歳における有病率を10.4%から9.8%へ、2024年までに低下させるとのこと。
2018年の70~74歳の人口が843万人、75~79歳の人口が711万人ですので、有病者数はそれぞれ30万3千人、73万9千人という計算になります。
つまり、70代の認知症の人は2018年現在、104万2千人いるということになります。
次に2024年の推計値ですが、70~74歳の人口が824万人、75~79歳の人口が800万人との予測です。
有病者数の目標値は824万人×3.4%=28万人、800万人×9.8%=78万4千人、という計算になります。
合計すると、106万4千人という数字に…
認知症の人の割合が減少したとしても、トータルの人数としては2万2千人も増えるのですね。
どうやって減らすのか
基本コンセプトには、『運動や適切な食事、人との交流、役割等によって発症を遅らせる可能性が示唆されていることを踏まえ、予防に関するエビデンスを収集・普及し、正しい理解に基づき、予防を含めた認知症への「備え」としての取り組みを促す』と書いてあります。
非常にまどろっこしい表現です。
要は、現時点で認知症予防に関する確実なエビデンスはないということですよね。
運動や適切な食事、人との交流、役割等はあくまでも発症を遅らせる“可能性”つまり見込みが、“示唆されている”つまりほのめかされているということです。
運動や適切な食事、人との交流、役割等が、現時点で認知症予防の確実な根拠になっているのだとすれば、「効果があるから運動しましょう、食事に気を付けましょう、人と交流して役割を持ちましょう」って簡単に言えるはずです。
まどろっこしい表現にしているのは、「これをすれば予防できる」という確固とした根拠がないからです。
有効な予防手段がない以上、どうやって数値目標を達成するつもりなのか、疑問を感じます。
自分らしく暮らせる社会って?
政府全体の方針としては、予防と共生を車の両輪として施策を推進するとし、70歳代の発症を10年間で1歳遅らせるという目標の他、認知症になってからも自分らしく暮らせる社会の実現という方針も打ち出されています。
車の両輪とのことですが、認知症になっても安心できる社会をつくる施策の方が、認知症の予防の施策より多くの人口をカバーできるわけですから、本来ならそちらが重視されるべきではないのでしょうか。
仮に10年間で1割の人が認知症を予防できたとしても、残りの9割の人は認知症を発症するのですから。
なのに政府が打ち出した目標の文言は、「認知症になってからも自分らしく暮らせる社会の実現」なんていう、具体性も何もない内容…
これでは、「認知症の人の割合を10年間で1割減少させる」、という施策の方を強調して報道してしまう気持ちもわかります。内容が具体的ですから。
そもそも「自分らしく」なんて、いまどきケアマネのケアプランにも書かれなくなってきている言葉です。
抽象的過ぎてイメージがわかない言葉を、あえて選んだ理由が分かりません。
無理な注文が増えそうです
前述しました通り、現時点で認知症の予防に関しての確実なエビデンスはありません。
ですが、認知症の予防が叫ばれるようになると、それがケアプランに反映され、「サービス事業所側は認知症を予防させなければならない!」なんていう声が聞こえてきそうな予感がします。
現在ですら、『認知症の進行を予防することができる』などという文言を目標として設定するケアマネがいるのが現実です。
具体的な予防方法がないのに、それを解決するための手段としてサービス提供者側はいったいどんな支援をすればよいのでしょうか。
予防する手段が確立されていないのにも関わらず、「サービスが悪いから認知症が進行してしまったではないか」なんて言うケアマネが現れやしないか、一抹の不安を感じます (笑)
まとめ
政府は2019年6月の関係閣僚会議で大綱を決定するとのこと。
やはり注目する点は、「どうやって予防するか」という具体的内容についてですね。
そして政府が6年の間にどのような認知症予防に関するエビデンスを収集することができるのか。
効果的なエビデンスを提示してくれることを、心より期待しております。
現場は愚直に泥臭く目の前の人の幸せを願って、今日できることをただやるのみです。
