社会福祉士行動規範には「社会福祉士は、クライエントの自己決定を尊重して支援しなければならない」と記されています。
自己決定の尊重は、対人援助において不可欠な理念であり、本人の人生を主体的に歩む権利を守るという意味を持っています。
しかし、現場に立つとその理念が理想として掲げられている一方で、現実には必ずしもすべてが自己決定に基づいて進んでいるわけではないと痛感します。
そこには常に「理念と現実のギャップ」が存在しているように感じています。
理念としての自己決定
自己決定とは、本人が「どう生きたいか」「どのように支援を受けたいか」を自らの意思で決めることです。
支援者はその選択を尊重し、可能な限り実現するために支援を行うことが求められます。
たとえば、デイサービスにおいても「今日はどの活動に参加したいか」「誰と時間を過ごしたいか」など、日常の小さな選択が自己決定の積み重ねです。
理念としては、こうした意思を尊重することがご利用者の尊厳を守る基盤になると考えています。
現実にある自己決定の限界
しかし現場では、自己決定をそのまま実現することが難しい場面が少なくありません。
たとえば、ショートステイを利用するケースでは「家族の介護負担を軽減する」ことが主な理由となるため、多くの場合、本人の意思よりも家族の意向が優先されます。
本人が「泊まりたくない」と自己決定していても、家族が限界に達していれば、本人の意思に反して泊まらざるを得ない現実があります。
わたしも受け入れの現場で、本人が納得しないまま入所する場面を何度も経験しました。
利用者から「帰りたい」と訴えられることは日常茶飯事です。
そのたびに「自己決定を尊重する」という理念と「家族や本人の生活を守る」という現実の間で葛藤を覚えます。
もし理念を徹底し「本人が嫌がるなら利用しない」とすれば、家族が疲弊し、結果として本人の生活基盤が崩れてしまう恐れがあると思うのです。
支援者としてできること
こうした矛盾の中で、わたしが心がけているのは「少しでも本人の意思を尊重できる余地を探すこと」です。
たとえば、「泊まりたくない」と言うご利用者には、「今日は一泊だけにしましょう」「日中だけ利用してみましょう」といった代替案を提案します。
完全に本人の希望どおりにはできなくても、納得感を少しでも高める工夫をすることで、理念と現実の間の溝を少し埋められるのではないかと考えています。
また、自己決定の尊重は「結果」だけではなく「過程」にも意味があると感じています。
最終的に本人の希望通りにならなかったとしても、その人の思いや言葉に耳を傾け、選択肢を示し、一緒に考えるプロセスそのものが尊厳を守る行為になるのではないでしょうか。
理想と現実のギャップをどう受け止めるか
現場で自己決定をめぐる葛藤に直面すると、「理想論だけでは現場は回らない」という事実を突きつけられます。
しかし、だからといって理念を軽視してよいわけではありません。
むしろ大切なのは、このギャップを理解した上で「いまの状況で最も自己決定に近い支援は何か」を問い続ける姿勢だと思います。
自己決定の尊重は、実現の難しさを伴うからこそ、社会福祉士として常に考え続ける価値があります。
わたしは今後も「本人の声を聴く」という基本に立ち返りつつ、現実の制約の中で最善を模索する実践を積み重ねていきたいと考えています。
まとめ
社会福祉士行動規範が掲げる「自己決定の尊重」は、理想と現実の狭間で常に揺れる課題です。
本人の意思を尊重しきれない状況に直面することは少なくありませんが、その矛盾と関わり続けること自体が、わたしたち支援者の役割だと思います。
わたしはこれからも、理念と現実のギャップを直視しながら、少しでも本人の意思に沿った支援を模索していきたいと考えています。
