介護サービスのご利用者を受け入れる際に、
「ちょっと問題行動のある人なんだけど…」
とケアマネから相談を持ちかけられることがあります。
この「問題行動」という言葉の良し悪しについてはさておいて、サービス事業者側としてどう考え、どのようなスタンスで臨めばよいのでしょうか?
ある担当者会議の例
先日、ある担当者会議に参加してきました。
その担当者会議の利用者のかたは、「利用中に怒鳴ったりして周りのかたを不快にしてしまう」俗に言う“問題行動”のある人でした。
わたしはショートステイの担当者として出席してきました。
といっても実際にうちショートステイを利用したことはなく、何かの時に備えて念のために契約してあるという状況です。
もうひとつメインで利用しているショートステイがあり、うちはサブ的なポジションでの契約となっています。
担当者会議の出席者は、ケアマネの他にうちともうひとつのショートステイ事業所、デイサービスとデイケア、ヘルパーの計6名。
(あ、ちなみに利用者と家族不在での担当者会議でした…)
話を聞いていると、どの事業所も対応に苦労しているとのお話でした。
“来てもすぐに「帰る!」と怒り出す。”
“他の利用者に罵声を浴びせる。”
“本人から毎日のように電話がくる。その度に文句を言われている。”
“スタッフが嫌なことをされている。精神的に参っている。”
などなど、事業所側からの苦労話が絶えませんでした…
(わたしはただただ話の聞き役に終始。だって、うちのサービスは利用してないですからね(笑))
約2時間かけて、それぞれの事業所が対応に困った話を共有した結果、出した結論は、
「今後も同様にサービスの利用を継続する!」
「本人はサービス利用をしたがっていませんが、それだと生活が成り立たなくなってしまうので、これからもなんとか介護サービスを利用してもらいましょう」
と最後にケアマネがまとめて、この担当者会議はお開きとなりました。
いち個人の利益を考えるか事業所全体の利益を考えるか
なぜサービス事業所はそこまでして、このようにサービス利用に拒否的な人を受け入れなければならないのでしょうか。
このかたは、サービスの利用に対して拒否を示しているわけです。
さらには、他のご利用者の迷惑にもなっています。
であれば、
「今後のご利用は難しいですね」
と、事業者側が契約を打ち切ったっていいわけです。
しかし、それをする事業所は少ない。
このように、俗に言う「問題行動のある利用者」を抱えている施設は少なくないのではないでしょうか。
「問題行動のある利用者を受け入れる」
という判断をするのは簡単です。
しかし、問題は受け入れた後
職員の疲弊
や
他利用者からの不満
が噴出します。
はっきり言って、施設が回らなくなります。
施設が回らなくなると、経営にも影響が出てきます。
経営が悪化すれば、最悪は事業所が倒産します。
倒産したら、その事業所を利用していた人、働いていた職員に多大な影響を与えてしまうことになります。
こう考えたときに、「問題行動のある人を受け入れないということは一概に悪である」ということは言えなくなりますよね。
逆を言えば、
「利用者を切り捨てることが善となる」
ということです。(危ない話になってきてますね(笑))
もちろん、
「その人の生活が成り立たなくなってしまうから、受け入れる」
という社会的意義はあると思います。
それは素晴らしいことだと思いますが、高尚な理念と財力を持った社会福祉法人などを除き、いち事業所がそのように立ち居ふるまいをすることは、リスクが大きいと思います。
ですので、
「事業者に関わる多くの人が得をするように、すなわち事業者の利益(=利用者の利益)を優先して考えるべき」
なのではないでしょうか。
ケアマネからの評判も考えないといけない
他方で、
「お得意先のケアマネだから」
や
「今後の付き合いもあるから」
などの理由で、あえてリスクを承知で利用者を受け入れる、という判断をする事業所もあると思います。
特に、ケアマネとサービス事業所の数が相対的に少ない地方などに多いですが、事業所の評判によってケアマネからの紹介件数は大きく変わります。
「問題行動のある利用者も受け入れてくれた」
という実績は、ケアマネからの評価につながります。
ケアマネからの評価が高ければ、また利用者を紹介してもらえます。
また、
ケアマネに恩を売ることで、違う人の紹介につながることもあります。
ケアマネ同士の口コミもあるので、事業所の評判がケアマネ内にシェアされます。
ケアマネへの営業を考えた場合に、あえて問題行動のある利用者を受け入れるという場合はあるかもしれません。
わたしの働いている地域は田舎なので、担当者会議に参加していた人たちはこのように判断をして利用者を受け入れたのかもしれませんね。
人として
ジレンマを感じるかたもいらっしゃるかもしれません。
「そもそも福祉は少数を救うためのものだ!」
「これじゃマネーゲームだ!」
「利用者は金儲けの道具じゃない!」
その通りだと思います。
しかし既存の高齢者福祉制度では、厳しいようですがこれが現実です。
介護事業者はジレンマを感じながらも、ときには利用者を受け入れる、ときには利用者を切捨てるなどを経営判断していくことが求められています。
「まず施設の経営を成り立たせなければ、そもそも人を救えません。」
きれいごとだけでは事業は成り立ちません。
いえ、はやくきれいごとを言えるようになるために、まずは事業を成り立たせる必要があると思います。
ただし、
この現実にジレンマを感じる人の心だけは忘れずに持っていたいですね。